ちょっと考えれば、やっちゃいけないとすぐわかるのに、ついやってしまう、ということがある。
万引き、浮気、なんていうのにもそういうところがあるのかもしれないが、その手のシリアスな話は置いておく。もっとバカバカしいことを取り上げたい。
小学生の頃、冷凍庫の製氷器を見て、急に舌をくっつけてみたくなったことがある。
ひんやりして気持ちいいかも、と想像したのだろうか。浅知恵とすらいえない。
製氷器を取り出し、霜の付いた金属部分に舌を押し当てた。
あっという間に舌先が凍りつき(なんせ、水気たっぷりだ)、製氷器が離れなくなった。
あがががが、と、製氷器を引きはがそうとしたが、ばっちりくっついて取れない。無理に力を入れると、舌がめりめりと嫌な音を立てた。
慌てながらも、製氷器から氷を取り出すとき、水道の水に当てることを思い出した。
べろんと出した舌に製氷器を貼り付けているという、見合い写真と遺影には使わないほうがいい顔のまま、流しに駆け寄った。
蛇口をひねり、顔を傾いで、水道の水を製氷器と舌の間に流した。
何秒かして製氷器が外れた。
舌からは血がにじんでいて、その晩の飯の食いにくいったらなかったが、まさかそんな間抜けな失敗を白状するわけにもいかない。我慢して食った。当時は根性があったのだ。そういう問題ではないか。
舌先といえば、こんなこともあった。
やはり小学校の低学年の頃だったか、角形の電池があるでしょう。上にプラスとマイナスの電極がついているやつ。
あの電池を見ているうちに、急に電極を舌に押し当ててみたくなった。どうもわたしはやたらと物を舌先に押し当ててみたくなる性分らしい。前世はオオアリクイか何かだったのだろうか。
舌というのは、ご承知の通り、唾でぬらぬらだ。伝導体としてはかなり優秀である。
電極を舌に当てた途端、ビリビリッともの凄いショックが来た。
うわあああ、と電池を放り出した。イオン臭というのだろうか、独特の焦げ臭いにおいがした。なんでまたそんなことをやりたくなったのか、自分でもよくわからない。
まあ、馬鹿ではあるが、敢闘精神は褒めてもらってもいいかもしれない。
わたしの話ではないが、針金を曲げて、コンセントの電極両方に突っ込んでみた、という人もいる。
火花とともに衝撃が来て、家中真っ暗になったそうだ。
テレビで誰が言っていたんだったか、まだ幼い息子がビデオデッキにハンバーガーを突っ込んだ、という話を聞いたことがある。
男の子はとんでもないイタズラをする、と怒っていたが、その子ども、ビデオデッキにテープを入れたらテレビに映像が映る。それなら、ハンバーガーを入れたらテレビにハンバーガーが映るんじゃないか、と考えたのかもしれない。
ここまで書いてきて、気づいた。
やっちゃいけないとすぐにわかることをやってしまう、というのは、好奇心のゆえなのだ。好奇心の瞬間最大風速が理性を超えるのである。
考えてみれば、雷の正体は電気であると証明するために、嵐の中で凧をあげたフランクリンだって随分、無茶である。好奇心を抑えられなかったのだろう。
まあ、製氷器に舌をくっつけて取れなくなった、どこぞの馬鹿と一緒にしてはいかんかもしれんが。
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「今日の嘘八百」
嘘四百九十三 「ロイター共同」はロイター社の人達が共同して頑張ってゲットしたニュースだ。讃えながら、読もう。