最初の笑い

 おかしくて笑うのは人間だけだというけれども、本当のところは知らない。


 案外、猫あたりは人間の馬鹿さ加減を横目で見ながら、“腹の中で笑っている”ような気もするのだが、猫ならぬ身、真相はわからないのである。
 せいぜい、猫の行動を見ながら「どうもこいつは洒落のわからぬやつらしい」と推測するのが関の山だ。


 チンパンジーはうれしいと笑うらしいけれども、おかしくて笑う、ということはあるのだろうか。
 誰か、チンパンジーの目の前で、バナナの皮に滑って転んでみせてくれないか。


 仮に、おかしくて笑うのが人間だけだとすると、北京原人だかホモ・エレクトゥスだか知らないが、最初に笑ったやつがいるはずだ。どういう状況だったのだろう。


 いきなり、アハハハハ、と笑い出したのか。まわりのやつらはびっくりしたに違いない。
 しかし、驚いて見ているうちに、自分もだんだんおかしくなってきて、アハハハハ。
 他のやつもアハハハハ。


 人類最初の笑いとともに、つられて笑う、という現象も同時に起きたわけで、二重に歴史的瞬間である。ついでに、お追従笑いも生まれれば三重だ。


 あるいは、やりつけないことだから、最初はうまく笑えなかったのか。


 そうだとすると、“半笑い”という、なかなか微妙な表情から人類の笑いは始まったことになる。




「笑ってるつもりなんですけどね」




「目が笑ってないってよく言われます」



 かの名作「2001年宇宙の旅」も、道具の発見ではなく、笑いの発見で始めればもっと凄い映画になったに違いない。


 モノリスに触れて猿人は笑い出すわ、月のクレーターでモノリスを見ながら研究者達はゲラゲラ笑うわ、宇宙に放り出されてプール副船長は頭かきながら恥ずかしそうに笑うわ、それを見てボウマン船長は腹を抱えて笑うわ、スターゲートがおかしくておかしくてボウマン船長がのたうちまわって笑いこけるわ、最高だと思うんだがな。


 ラストシーンでは、スターチャイルドが地球を見て、大爆笑するのだ。

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「今日の嘘八百」


嘘四百九十四 スターチャイルドはあの後、隕石にぶつかって終わったそうである。享年0歳。