いじめた体験

 いじめた体験もある。


 小学校、中学校と一緒だった女の子で、仮にAさんとしておこうか。


 Aさんは体が小さく、骨に皮がついているような風貌で、しゃべり声は聞き取れないくらいに小さく、いつもおどおどしていた。おどおどしていたのは、あるいは、ずっといじめられていたせいだろうか。


 ガキどもの間では、「A=いじめの対象」という公式が完全にできていた。小学校低学年の頃から、ほとんど、バイ菌扱いされていた。


 わたしも小学校の頃、友達の尻馬に乗って、彼女の名前をもじったあだ名を連呼したことがある。あるいは、近よるな、菌がうつる、みたいなひどいこともいったかもしれない(言った側はあまり覚えていないもののようだ)。
 そんなとき、Aさんはただでさえ小さい体をいっそう小さくして、おどおどした。そのおどおどがまた、ガキどもの嗜虐心を煽るのだった。


 中学に入ってからは別のクラスだったこともあって、Aさんがどういう目にあっていたのか、よく知らない。
 しかし、中学生というのは人のことがわからず、やけに残酷な年頃だから、さらにひどい目にあっていたのではないか、と思う。


 あるとき、ホームルームの時間に、担任が、○組のAさんへのいじめはやめろ、ときつい口調で叱った。Aさんは自殺しかけたんだぞ、と言う。


 それを聞いて、軽いショックはあったけれども、一方でそれはそうかもな、と思った。その頃はもう、他人事になっていた。


 その後、Aさんがどうなったのかは知らない。