いじめられた体験

 新聞・テレビなどでは、一時ほどいじめの問題を扱わなくなったようだが、たぶん、いじめ自体が減ったというわけではないだろう。


 政治資金処理の問題とか、企業の不祥事とか、役所の不正行為のように、その折々でマスコミが集中して追求する問題があるのだと思う。
 言葉は悪いが、マスコミにおけるいじめの流行は、とりあえず去ったのだろう。


 わたしも、中学時代にいじめられたことがある。
 わたしが通っていたのは校内暴力吹き荒れる地方の公立中学校で、いわゆるツッパリのやつらがいた。


 特にそのうちの1人によくいびられた。
 カツアゲとか、昨今、聞くようなパンツをおろされるような目には会わなかったが、殴られたり、蹴られたり、プロレスの技をかけられたりした。


 相手は弱いやつをおもちゃに遊んでいるつもりだったのだろうが、わたしは無闇と自尊心が高く(そんなところも向こうからすると鼻についたのかもしれない)、ひどく悩んだ。
 しばしば堪忍袋の緒が切れて逆襲するのだが――驚くべきことに、当時のわたしにはガッツというものがあったのだ――いかんせん、どんくさく、返り討ちにあうだけだった。


 下僕のように、「何々してこい」と命じられることが屈辱だった。これも、自尊心の高さの故かもしれない。


 さらにみじめなのは、他の生徒の前でやられることで、また、尻馬に乗って、囃し立てるようなやつらもいた。もしかしたら、それが一番恥ずかしく、嫌だったかもしれない。


 相手に取り入ろうとしたり、小学校時代からの友達のツッパリに仕返しを頼んだりしたこともある。
 どちらも、そういうことをしている自分が、卑怯で、ひどくみじめに感じられた。


「(取り入ろうとしている)稲本見てると、みじめでさ」と友達に言われたことがある。ひどくこたえた一言だった。