思いもよらない世界

 人間というのは、目の前に思いもよらない世界が広がると、面白く感じるらしい。


 例えば、散歩していて、普段は曲がらない角を曲がる。どんどんわけのわからないほうへ行ってしまい、「あれれ、どこへ行っちゃうのかな」と少々、不安に思う。
 そうして、狭い路地を抜けたらいきなり丘の上、眼下に町が広がっていた、なんていうのは、楽しい体験だ。


 冒険映画の類も、しばしばこの心理を利用していて、ジャングルだの洞窟だのを抜けると目の前に一大パノラマが広がる、なんていうシーンがよくある。カメラが下から上にスーッと上がって俯瞰する、というのがお決まりのパターンだ。


 小咄でも、次のようなのは、突然、思いもよらない世界が開けるから面白いのだろう。


「お母さま、アメリカはまだかしら」
「黙って泳ぎなさい」