最後に、絵についての感想を少し。
砕けようとしている波を高速で撮影すると、波の先は実際、こんなふうに見えるのだそうだ。
おそらく、北斎は波をじーっと見て、その瞬間を記憶なり、メモなりにとどめたのだと思う。
しかし、わたしは、だから北斎は偉い、パチパチパチ、というのはつまらん、と思うのだ。絵は、実物の通りに描いてあるから人を感動させるわけではない(いや、そういう人もいるけどさ)。
この波の先っぽは、わたしには無数の亡者の手に見える。
地獄絵で「助けてくれ!」と上の世界に向かって伸びる無数の手。あるいは、自分と同じ世界に人を引き込もうとする手。
舟はまさに今、大波によって危機に置かれている。次の瞬間にはひっくり返って、船頭達は溺れてしまうかもしれない。
その襲いかかる波と、無数の亡者の手(あるいはそれに類するイメージ)、得体の知れない怪異なもの(左手前の波なんて特にそうだ)を重ねたところに、北斎の凄さがあるんじゃないか。と、そう思うのである。
いや、もちろん、まずこの構図が凄いんだけれども。
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「今日の嘘八百」
嘘二百七十六 人魚の生殖は鮭のそれと同じ「シャーッ」方式だという。