衣装は成り上がる

 逆に時代を経るにつれ、位置が高くなっていくのが衣装である。


 狩衣は何せ「狩り」の「衣」だから、最初はあまり大した服とは見られていなかったのだろう。それがだんだんとあらたまった服装になっていった。武家にとっては礼服である。


 直垂(ひたたれ)は古くは庶民の服だったそうだが、公卿や武士の平服からやがては礼服になった。
 小袖は元々下着だが、やがてそれだけ着ていてもかまわぬものになった。今の浴衣のありように通じるかもしれない(何しろ「浴」衣である。あまり平気で外を歩くものではなかったのだろう)。


 洋服でも同じような成り上がり現象が見られる。


 タキシードは、今では、結婚式の披露宴で新郎を馬鹿に見せるための特別な服になってしまったが、元々は「略式礼服」である。


 じゃあ、本来の礼服が何かというと燕尾服やモーニング・コートである。さすがにあんな鳥みたいな格好が大仰に感じられて、あまり着られなくなったのであろう。


 勇気のある御仁は、夜の混み合った繁華街を燕尾服で歩いてみられたし。もしかしたら、モーセ出エジプトを体験できるかもしれない。
 あるいは、「本番に遅刻したオーケストラの人か手品師」として、非常に珍しがられるだろう。


 スーツは平服だったのだが、今では礼服としても使えるようになった。
 現在は移行期で、スーツ着用が絶対の会社も多いが、だんだんとカジュアルウェアでもOKという会社が増えている。


 このまま、服装の出世が続けば、やがては葬式もジーンズでOKとか、Tシャツが礼服になる時代が来るのであろうか。
 その頃には、全員、全裸で会社に行くようになってたりして。


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「今日の嘘八百」


嘘二百六十四 アニマル浜口氏は気合いを入れながら死んでいく。