4日間に渡るアホ歌の旅も、いよいよ今日で終わり。
最後に、フランスのアホ歌をもうひとつ見てみる。「クラリネットをこわしちゃった」である。
まず、一題目の歌詞。
僕の大好きなクラリネット
パパからもらったクラリネット
とっても大事にしてたのに
壊れて出ない音がある
どうしよう どうしよう
ここまでは、よい。
物を壊して不安な気持ちになる少年の気持ちは、小学生の頃にドライバーの使い方を覚え、ラジオ・時計・その他ネジもの全般の破壊王と化した私には、よーくわかる。
ところが、この後、少年は、いきなりわけのわからないことを歌い出すのだ。
オ・パッキャマラド
パッキャマラド
パオパオ パンパンパン!
オ・パッキャマラド
パッキャマラド
パオパオパ!
君は、確か、さっきまでクラリネットが壊れたことを気に病んでいたのではなかったか?
な〜にが、「パオパオ パンパンパン!」だ。なぜに、ここでハナモゲラ語が出てくるのか?
ひとつ考えられるとしたら、あまりの不安で少年の頭がパーになってしまった、という理由である。スイスのブレネリさんが狼を恐れるあまり、踊り出してしまったのと同じように(id:yinamoto:20050303)。
ここのところ、実はフランス語の原詞ではこうなっている。
Au pas, camarade
Au pas, camarade
Au pas, au pas, au pas
Au pas, camarade
Au pas, camarade
Au pas, au pas, au pas
Au pas, au pas
日本語版では、フランス語の歌詞の音を真似ているのだが、「パオパオ パンパンパン!」などというフザケた歌詞はフランス語版にはない。やはり、ハナモゲラであった。
おそらく、日本語版には、浮かれた音で幼児(および親、保母達)に取り入ろうという計算があるのだろう。手口は全部バレてんだ、ザマーミロ。
二題目はこう。
ドとレとミの音が出ない
ドとレとミの音が出ない
とっても大事にしてたのに
壊れて出ない音がある
どうしよう どうしよう
この後、また「♪オ・パッキャマラ〜ド〜」とパーになって歌い出す(おそらくは浮かれ踊っているものと思われる)のは同じである。
三題目はこうだ。
ドとレとミとファとソとラとシの音が出ない
ドとレとミとファとソとラとシの音が出ない
パパも大事にしてたのに
見つけられたら怒られる
どうしよう どうしよう
そうして、みたび「♪オ・パッキャマラ〜ド〜」とフザケた踊りを繰り出すのだ。まさに、アホ歌。
日本語版の歌詞と原曲(フランス語)の歌詞は、だいぶ違っている。フランス語版の訳については、こちらをご覧いただきたい。
・世界の民謡・童謡 ソングブック クラリネットをこわしちゃった
こっちの歌詞のほうが、ずっとよくできている。
まず、ドが出なくなり、次にレが出なくなり、次にミが出なくなり……と、順々に壊れていき、9題目に至って、ついに全滅する。
その、じょじょに高まっていく緊張と不安。いっそ、スリラーと呼んでもよい。あるいは、ひとりずつ仲間を失っていく、「エイリアン」の恐怖にも通ずる。
ところで、このフランス語版に出てくる父親は、なかなか洒落たところのある人のようだ。
(あくまで少年の想像のうえで、だが)出ない音があるのを「リズムをわかっていない」と捉える。そうして、「お前は人がダンスをどうやって踊るのかを知らないようだ」と言う。
イカした男じゃないですか。
問題は、少年の硬直した思考にある。
ドが出なくなった段階で、父親が「リズムをわかっていない」と言うだろう、と想像するのはよい。
レも出なくなって、同じことを考える。ミも出なくなって、同じことを考える。
ここらあたりまでは、まあ、許そう。
しかし、ファが出なくなったあたりで、そろそろ別の考えが浮かびそうなものではないか? 「どうにか直せないか」とか、「犬が飛びついて壊したことにしてしまおう」とか、「楽器屋でクラリネットを万引きできないか」とか、「家を出よう。旅に出よう。いっそ、荒野を目指そう」とか、そういう思考の展開があってもいいのではないか?
ところが、少年はシまで出なくなって――つまり、全く音が出なくなって――まだ父親が「リズムをわかっていない」と言う、などと想像している。音が出ないのに、リズムもヘチマもあるものか。
よほど幼いのでなければ、婉曲に言って愚直、はっきり言って馬鹿である。
ともあれ、フランス語版の「クラリネットをこわしちゃった」は、少年は馬鹿だが、歌自体はアホ歌でない。むしろ、なかなかよくできた歌だと思う。
一方、日本語版の「クラリネットをこわしちゃった」は、アホ歌だ。そのほとんど全ての原因は、「♪オ・パッキャマラド、パッキャマラド、パオパオ、パンパンパン!」というフザケた歌詞にある。
浮かれたメロディとも相まって、パッパラパー感に溢れている。
私は、何かで失敗したとき、この「♪オ・パッキャマラ〜ド、パッキャマラ〜ド〜」というフレーズを唄うことを推奨したい。
たとえば、職場で上司に呼びつけられ、
「イナモト君、この減価償却費の計算は何だね? まるっきり、間違っているじゃないか! おかげで、決算の計算は、全部やり直しだ!!」
と、怒られる。
ここで、石焼きビビンバ用の鍋で上司の後頭部を殴ったりしてはいけない。
正しく、「♪オ・パッキャマラ〜ド、パッキャマラ〜ド、パオパオ、パンパンパン!」と踊り出すのだ。
あるいは、浮気して帰ってきた。着替えようと服を脱いだら、胸元にくっきり、キスマークが。
「何よ、それ!」と問いつめる妻に、「♪オ・パッキャマラ〜ド、パッキャマラ〜ド〜」。
何かこう、パーの至福感、とでもいうべきものを味わえるはずだ。