小さい「っ」のもたらす効果は、よく知られている。
 簡単にいえば、勢いをもたらすのである。


 たとえば、「それがどうしたというのだ」という言い回しを、「それがどうしたっていうんだ」としただけで、勢いが増す。


 さらには、うかうかしていると、「それがどうしたっつーんだ」というところまで行ってしまう。「っ」が「つーんだ」というラフでワイルドな言い回しを呼び込むのだ。勢いで。


 また、「っ」は「!」と相性がいいことでも知られている。


「おれが稲本だっ!」と、まあ、メッセージとして何を訴えたいのかはよくわからぬが、少なくとも意気込むことはできる。


 ただし、意気込みというのは、しばしばカラ元気と隣り合わせである。
「そうして、おれはヘトヘトだっ!」と、私は静かに行き倒れてしまうのだった。


 さて、私は今日、もう少し地味な文字に注目してみたい。ひらがなの小さい「ぅ」である。


 この「ぅ」というやつ、油断していると、ダメダメ感、甘ったれ感、へたれ感をもたらす、恐るべき文字なのだ。


 たとえば、栄養ドリンクの有名なコピーに、


「ファイト! 一発!」


 というのがある。「ぅ」の魔の手にかかると、いきなりダメになってしまう。


「ファイトぅ! 一発ぅ!」


 中学校の体育の授業で持久走をやると、最後方グループのやる気のない人々は、たいてい、こんなふうな態度になっていますね。
 なんとなくオカマチック感覚もあるが、へたった感じと、オカマのしなの作り方が、似通っているからかもしれない。


「ぅ」は、主に五十音の「う」の段か「お」の段の音に付く。


 思いつくままに、「ぅ」をつけてみよう。今わかったのだが、どうやら、「っ」と「!」の相性がいいように、「ぅ」は「。」と相性がいいようである。


少子高齢化に備えた年金制度改革ぅ。」


 国会で、議員のみなさんが、こんな言葉遣いで議論している様を想像すると、気色悪いような、楽しいような。


 今、部屋を見回して、パッと目についた映画のタイトル。


カルメン故郷に帰るぅ。」


 うーん、だんだん、へたれ感というより、オカマチック感のほうが強い気がしてきたな、この「ぅ」というやつは。


マトリックスぅ。リローデッドぅ。」


 主演は、キアヌ・リーブスぅ。


 今日は、司馬遼太郎の命日だそうなので、「ぅ」をお供えしましょう。


竜馬がゆくぅ。」


 あら、そぉ〜ん。


 最近のベストセラーに、「ぅ」をつけてみますぅ。


「世界の中心で、愛を叫ぶぅ。」
いま、会いにゆきますぅ。」
今週、妻が浮気しますぅ。」


 これじゃあ、ほとんど、さとう珠緒か、オカマ・バーよぅ。


▲一番上の日記へ行きますぅ。