今日も撤収!

 私は天の邪鬼のせいか、言葉をモジリアーニするのが好きだ。


 変な言い方で申し訳ない。昨日、ひさしぶりにキューブリックの「時計じかけのオレンジ」を見たせいで、デボーチカでアルトラでハラショーなのだ。
 見てない人には何言ってんだかわかんないだろうが。


 ま、それはともかく、言葉をちょっといじったり、取り替えたりするだけで、変な世界が開ける。私は、そういう奇妙な瞬間を味わうのが好きなのだ。


 たとえば、正座していて、足が痺れたことに自分でも気づかず、立ち上がる。そうすると、足がくねん、となる。
 不快は不快なのだが、その、くねん、とした感覚が妙に面白くも感じられる。アハ、アハハと、なぜだか笑いたくなる。
 言葉をもじったときも、同じような感覚を味わえる(ときもある)のだ。


 今日も、そういう試みをやってみたい。上手くいくかどうかはわからない。出たとこ勝負で行く、というのはこの日記の基本的戦法だ(そうして、しばしば、出たとこ負けに終わるのである)。


 昨日、書いた「撤収」という言葉を、いろんな本に当てはめてみる。


 まずは、昨年、売れたり、泣かれたり、ケナされたりと大変だったらしい、この小説。


「世界の中心で、『撤収!』とさけぶ」


 これでは、単にロケが終わった、というだけのことである。相変わらず、撮影部隊は急いで機材をまとめて放り込み、ADの尻は蹴飛ばされ、ヤマちゃんはロケバスで逃走するのだ。
 わけのわからない人は、昨日の日記(id:yinamoto:20050201)を読んでください。読んで事情がわかったからといって、そこからは何も生まれませんが。


「今週、妻が撤収します」


 まあ、要するに、妻が家から出る、と。別居する、あるいは実家に帰る、と。妻は「アタシの荷物は全部、持っていくからね。ベッドもテレビもクローゼットも、もともとぜーんぶ、アタシんだし。電子レンジと冷蔵庫も持っていくから、勝手に飢え死にすれば。フン」、と。しかも、スピーディかつ勢いよく、引っ越しは敢行される、と。もちろん、トラックを運転するのはヤマちゃんだ、と。
 そういうことになっているわけだ。世間にはよくある話です、ええ。


「いま、撤収しにゆきます」


 これはいったい何だ? 現場に機材を大量に忘れてきたのか? 照明用の仮設の足場をうっかりそのままにして、周辺住民から大変な苦情が来たということか?


 何となくだが、この撤収、簡単には終えられない気がする。
 野越え、山越え、川を越え。毒蛇と戦い、サーベルタイガーと死闘を繰り広げ、飢えと渇きに悩まされ、大変な苦労の後にようやく現場にたどり着いてみたら、周辺住民に襟首をつかまれるわ、警察からは正式な撮影許可を取っていないと怒られるわ、おまけにヤマちゃんのロケバスはガス欠に陥るわ、という血湧き肉躍るアクション超大作。かどうかは知らない。


 本ではないけれども、映画の「大脱走」をモジリアーニして、こういうタイトルに変えたら、どんな話になるのだろう。


「大撤収」


 あるいは、「撤収戦士ガンダムとか、攻殻撤収隊」とか。
 戦闘なんてしない。戦場に着いたら、わーっと、とにかく大慌てで片づけて、逃走するのだ。


 ストーリーは各自の想像力におまかせします。


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