読み書き

 今朝の朝日新聞に、文科省所管の財団法人「総合初等教育研究所」が2003年に行った、小学生の漢字読み書き調査の結果が載っていた。


 前回、1980年に行った調査と比べると、正答率は読みで1ポイント増、書きで5ポイント増だそうで、最近のガキどもはなかなかやるではないか。
 見出しには「落書きを『楽書き』」、「木かげを『小かげ』」、そして、新聞というのは問題意識を示さないと気が済まないものなのか、デカデカと「正答率 高学年ほど低下」と書いてあった。


 高学年に行くほど、触れる漢字・言葉の種類と複雑さは増すだろうから、正答率が低下するのは自然なことだと思う。問題はどの程度、低下するかだが、これについて、私には判断基準にできる材料も能力もない。


 ネズミなどの囓歯目(げっしもく)を「げっぱめ」と読んだツワモノも、大人にはいる。だから、少年少女のミナサンよ。新聞が何と書こうと、気にすることはない。
 ま、気にしちゃいないだろうけど。


 もちろん、漢字はなるべく読み書きできたほうがよい。実用的な面からばかりでなく、言葉のニュアンスを味わったり、それで遊んだりもできて、面白いからだ。
 たとえば、「情けない」と「ナサケない」、「女」と「オンナ」、「大人の遊び」と「オトナの遊び」では微妙に受け取る感覚が違う。元の漢字のほうを知らないと、わざわざカタカナにしたときに付け加わる、隠微なニュアンスもわからないだろう。


 記事には、なかなか楽しい間違いも載っていた。


 上にある「落書き」を「楽書き」なんていうのは、これを書いたガキどもの感覚が伝わってきて、いい感じだ。きっと、落書きするのが楽しいのだろう。


 次の「木かげ」を「小かげ」というのは、小学校では教えていないのだろうが、完全な間違いではない。
 問題文では「すずしいこかげ」と出したそうだけれども、「小かげ」は「ちょっとしたものかげ」という意味だから、それはそれで合っている(いや、状況を想像するとちょっと変か……。ガキどものミナサンよ、38歳で毎日文章を書いていても、日々、迷ってばかりなのだ)。


「米作(べいさく)」を「こめさく」と読んだガキが多かったそうだが、これは惜しかった。ぜひ大勢のガキどもに、力強く、「よ・ね・さ・く」と書いてほしかった。


「一糸乱れぬ」を「一志乱れぬ」。これなんか、新しい表記に加えてもいいんじゃないか。「志がひとつになる」――行進指導体育教師・軍隊組織的理想心理状態で、嫌な感じである。


「食が細る」を「食がこまる」というのは、ちょっと笑った。そりゃ、確かに困る。


「遠足」を「園足」。小学校の頃は、遠足で動物園とかナントカ・ランドに行くことが多いからだろうか。
 おそらく、遠足というのは、戦前には行軍の初歩的教練だったのだろう。それが今でも残っているというのも驚くべきことだが(そういえば、ランドセルというのは、もともと歩兵の背嚢である)、まあ、ガキどもは楽しそうだから、別にかまわないか。


「家路を急ぐ」を「家事を急ぐ」。お母さん、大慌てである。


 感動した表記もあった。


「積乱運」。


 こんな表現、そう簡単に思いつくものじゃないですよ。
 空にこんなものがわーっと広がったら、まず無事ではいられない。あれま、と言っているうちに、激しい運命の転変に弄ばれることになる。ジャン・バルジャンか、厳窟王か、チボー家の人々か、はたまた阿部定か。


 えー、一応、知らない方のために申し上げておくと、最後のは人の名前で、「あべ・さだ」という女性であります。ナベサダとは関係ありません。
 私は中学の頃からずっと「あぶてい」と読んでいて、真相を知ったときは大そう恥をかきました。