耳の穴の汗

 人間の体というのはよくできているなあ、と常々感心している。もちろん、心臓とか胃腸とか肝臓腎臓方面というのも複雑にして不可欠な機能を備えているのだが、もっとつまらないちょっとしたことなんかもよくできている。

 たとえば、今の季節、外に出ると大汗をかく。おれはここ数年、太ってきたせいか、異常な汗っかきになってしまい、ちょっとどうしたんだろう、と思うくらい汗まみれとなる。血液によく水分が残っていると感心するくらいだ。

 ところが、耳の穴の中には汗をかかない。全身がどれだけ汗をかいても、耳の中が、海やプールで水が入ったように詰まるということはない。いくらかは湿るような気もするが、それはおそらく外の湿気のせいだろう。耳の穴は外の皮膚とつながっているのに、汗をかかないというのは不思議な気がする。いや、もちろん、汗腺がないということなんだろうけど、そういう処理が進化の過程で自然にできたということが不思議に思えるのだ(追記:耳の中にも汗腺はあるそうだ。他の皮膚ほどは甚だしく汗を分泌しないということなんだろうか)。

 進化論的に考えるとどういうことなのだろう。耳の穴の中に汗をかく個体とかかない個体がいて、汗をかく個体のほうは耳が詰まって音が聞こえなくなったり、炎症を起こしたりして、何だかんだで次世代に子孫を残せなかったということなんだろうか。

 耳の穴に汗をかくかどうかなんて、ちょっとしたことなんだけれども、それでも人体というのはよくできているなあ、と思うのである。