上品とは何か

 言葉というのは必ずしも辞書的な定義によってばかり覚えるものではなく、しばしばさまざまな事例を体験しながら「これが○○ということだよ」と教わって会得していく。幼児が言葉を覚えるプロセスがわかりやすい例で、「右」を「箸を持つほうの手」なぞと教えて、経験的に言葉の意味を覚えさせていく。例えば、「愛」「美しい」「親切」なんていうのは定義で教わるもんではなくて、体験から何事かを抽出して、その作業を繰り返しながら精錬して覚えていくものだろう。そうしたものは、いざ言葉の意味を答えろと言われると答えにくい。

「上品」というのも、個々の例を指しながら、これは上品である、これは上品でない、と言うのは簡単だが、定義を語るのはなかなか容易ではない。あれこれ理屈はつけられるだろうが、後付けの、自分の感覚や好みを言い訳するようなものになりがちである。

 おれは上品であるための条件は、

・自分の中の決め事に従っている。
・人に対する配慮や優しさ、愛情がある。

の2点だと昔からずっと思っている。しかし、この間、立川談誌の昔のビデオを見ていたら、

「上品てのは、欲望に対する表現のスローモーなやつのことだ」

 と言っていて、ヤラレタ。参りました。

 実際に何を上品とするかは人によって違うが、上品という言葉の意味を我々は共通理解しているだろう。美しいと感じるものは人によって違うが、美しいという意味をお互いに了解しあっているのと同じように。では、「上品」とは何なのだろうか、共通理解として。欲望に対する表現のスローモーなやつ? 魯鈍は上品なのか?