コケる人〜2

 昨日も書いたが、わたしは実によくコケる。いっそ、コケるために生まれてきたと言ってもよいくらいである。

 わたしのコケ方のベスト3(こういうときはワーストと言うのだろうか)はこんなところだろう。

1. 階段に蹴つまずく
2. 雨の日に足を滑らせる
3. 特に理由もなく体のバランスを崩す

 1は、おそらく、ぼーっとしているということなのだろう。ある意味、無念無想で階段を昇っているのである。昔の剣豪の話を読むと、無念無想の境地では敵の攻撃を反射的に防いだりできるらしいが、こちらは反射せずにただただ階段に蹴つまずき、前歯の二、三本もへし折るだけだ。

 あるいは、他の考え事に気を取られているときもあるかもしれない。いずれにせよ、階段を昇ることを頭が軽視しているわけで、見方によっては、階段から復讐されているとも言える。「あたしのことなんか、ホントはどうでもいいんでしょ!」ということなのかもしれない。

 2も多い。濡れた床面の上を濡れた靴底で歩くと、つるり、とやる。これはなかなかのスペクタクルであって、うわととと、とバランスを取ろうと慌てて足を踏み出すのだが、体勢を立て直せず、また足を出して、また足を出して……とバタつく。まわりからすると、急に踊り出した人がいるかのごとくだろう。一度くらいは見事に体勢を立て直し、とっさに薔薇の花を口にくわえて「オーレ!」とキメてみたいのだが、残念ながら、まだ実現したことがない。まずは薔薇の花を用意しておかなければ。

 滑るのは、駅の構内が多い。滑りやすい床面になっている駅が結構あるのだ。あと、最近、東京のあちこちにニョキニョキ生えている超高層の複合ビジネスビルのエントランス部分も要注意である。ああいう、雨に濡れた靴で入ってくる場所に、大理石や大理石を模した床材なぞ使うな、と言いたい。

 わたしの研究結果によれば、国産の某靴メーカーのビジネス・シューズは雨の日によく滑る。物凄く滑る。ちょっとどうなのよというくらい、滑る。一時はデザインが無難なのでよく履いていたが、あまりに滑るので、やめてしまった。ああいうの、製造者責任とやらにならないのかしらん。

 3の「特に理由もなく体のバランスを崩す」は、自分でもよくわからない。普通に歩いていて、歩行に失敗するのである。苦労して直立二足歩行を確立したご先祖様に申し訳ない。

 一度、交差点で急にヨロケたことがある。ヨロケた先に若い娘さんがいた(娘さんはたいてい若いが)。斜め前にいた男(わたし)が急に六方を踏みながら向かってくるものだから、娘さんは「うわっ!」と叫んで飛び退いた。わたしも恥ずかしかったが、向こうはさぞや怖かったろう。

 シィマセン、シィマセン。生まれて、シィマセン。