唐辛子は人を狂わせる

 時々、キムチを食べる。


 いささか過敏の気があるのかもしれないが、寒い日であっても、食べると汗をかく。
 体が無理矢理活性化される感じもあって、こりゃ軽いドーピングだなあ、などと思う。


 唐辛子というのは結構、特殊な食品ではないか。
 中くらいの入れ方、というのはあまりないように思う。


 和食では、七味唐辛子を軽くふりかける程度、という使い方が多い。
 それより量が増えると、いきなり真っ赤っかへと飛ぶ。各種朝鮮料理や四川料理、あるいはメキシコ料理もそうだ。


 あれら、どういう過程を踏んで、あそこまで真っ赤になったのだろう。


 最初は、やはり和食の七味程度にぱらっとかけていたのが、だんだん刺激が物足りなくなってきて、あるとき、「えーい、どうだ、ウヒヒヒヒ」と、料理全体に唐辛子をぶちまけた人がいたのだろうか。
「真っ赤だぜ、ウヒヒヒヒ。うおー、か、か、か、かれー。全身が燃え出すぜ、ウヒヒヒヒ」とまあ、いささか変態的ヨロコビを覚えつつ、むさぼりくったのではないか。


 いや、何の証拠もない、勝手な想像なのだが。


 しかし、辛さというのは、どこか人の常軌を逸の字へと導くところがあるように思うのだ。


 甘さでは、そうはいかない。


 お汁粉にさらに砂糖をドバドバ入れて、「ウヒヒヒヒ。うおー、あ、あ、あ、あめー。全身が太り出すぜ、ウヒヒヒヒ」、というヨロコビようは想像しにくい。
 甘さは、人をにっこり満足させるだけである。


 辛さというのは粘膜レベルでの刺激だから、人を攻撃的気分にするのかもしれない。唐辛子は、ロケンロールだ。ベイビー。