コンパス人間

 昨日、「方向勘が悪いほうではない」と書いた。


 よく、自分は方向音痴で、という人がいるけれども、あれはどういうものなんだろう。
 進んだ距離や曲がった角度などから、頭の中に仮の地図(というより、見当程度だが)をつくるのが苦手ということなのだろうか。
 それとも、人間には方位を感知する能力があり、方向音痴の人はその能力に欠けている、ということなのか。


 最近は能力が落ちてしまったかもしれないが、わたしは子どもの頃、北の方角をピタリと当てることができた。
 仰向けになり、いろいろ方角を変えてみて、頭が北を向いたとき、「ああ、こっちだな」とわかった。
 頭が北に向いたとき、何かこう、かすかに頭の中にジンと来るような、変な感覚が起きたのだ。


 どういう理由によるのかはわからない。全身が棒磁石のようになっていて、頭と足がそれぞれNとS、どちらかの磁性を帯びていたのだろうか。


 だとしたら、わたしの体をまっすぐ水平にして紐で天上からぶら下げると、ぶらぶら揺れながら、やがて頭は北、足は南を指したはずだ。
 残念ながら試してみる機会がなく、というか、当時はそんなこと思いつきすらしなかったので、実験してみたことはない。
 小学校の夏休みの自由研究にそんなものを提出したら、先生も困ったろうなあ。惜しいことをした。


 あるいは、海水浴で砂浜に寝転がる。
 しだいに体のまわりに砂鉄が引き寄せられる。やがて、頭と足の間に、砂鉄であの磁力線の弧がきれいにできあがる――なんていう現象も起きたかもしれない。
 残念ながら、ガキの頃は海水浴に行くとそこらを走り回り、泳ぎ回り、溺れて、わーっと沖に流されているだけだったので、やってみたことはない。


 今でもあの能力、自分に残っているだろうか。


 自宅では、すでに「知識」として南北を知っているので、きちんとした実験ができない。
 いつか、曇りの日や夜に砂漠や荒野で方角に迷う機会があったら、試してみたい。