ジェンナー、現代にあらば

 先週書いたように、イギリスのエドワード・ジェンナーは天然痘予防接種法を発明した偉人である。しかしまあ、その方法は8歳の少年(他人)に牛痘を接種し、その数ヶ月後に天然痘を接種してみる、というなかなか冒険的なというか乱暴なやり方であった。誰もそんなことやってみたことがないのだから、まあ、仕方がないといえば仕方がないが。

 ジェンナーがこの人体実験をやったのは18世紀末で、もちろん、今とは物事の考え方も医学のあり方も価値観も違う。しかし、もしジェンナーが現代の日本に生きていてマスコミの餌食になったらどういうふうだろうか。仮にジェンナーが現代の富山県の医者だったとしてみよう(富山県という設定にするのは別に深い意味がなく、おれの生まれ育った土地で、ジェンナーも当時、イギリスの田舎医師だったからである)。

 

富山の怪医師! 8歳の少年に天然痘を注射!!

 

 富山県のある町で、今、奇怪な噂が広まっている。噂の主はエドワード・ジェンナーという開業医師。学士院のメンバーであるいわば地方の名士である。

 噂によれば、ジェンナー医師は、牛痘にかかった農婦の手にできた水疱から液体を抜き、それを8歳の少年に注射し、さらにはその数ヶ月後に、同じ少年に、天然痘にかかった人の膿を注射したという。

 少年の身元は不明だが、孤児とも、貧しい家庭で、親が注射する代わりにお金を得たとも、さまざまな話が伝わる。

 事情を知る近所の主婦達はこう語る。

「ジェンナーさんの診療所から、小さな子の泣き叫ぶ声が聞こえました。その声を聞くだけで、もう、怖くて、怖くて」

「そのお子さん、注射の後、ひどい頭痛で、食欲がなくなり、まる一日、苦しんだと聞いてます」

 事実なら、恐ろしい天然痘を子供に注射するという悪魔にも等しい行為。明らかな児童虐待、殺人未遂であり、地元の警察も関心を持っているという。

 

 やがてこんな事実も判明する。

 

実の息子にも天然痘を接種!  富山のマッド・ドクター、恐怖の人体実験

 

 先日、報道した富山の怪医師は、以前にも同様の事件を起こしていることが判明した。ジェンナー医師は、7年前にも、あろうことか実の息子に天然痘の膿を注射。本人は「医学の進歩のためである」とうそぶいているというが、子供を使った恐怖の人体実験に、富山の小さな町には戦慄と恐怖が走っている。

 

 もっともジェンナーの当時、軽い症状の天然痘を接種すれば、軽い天然痘を患うだけである、ということは(疑いの目で見られながらも)知られていたという。

 そして、マスコミが富山のジェンナーを追ううちに、こんな事実も判明する。

 

富山の怪医師に悲しい過去 孤児、虐待、人体実験

 

 連日報道の続く富山の怪医師エドワード・ジェンナー氏であるが、本誌は彼の過去を追ううちに、少年時代の恐怖の体験を知ることになった。

 ジェンナー氏は幼くして孤児になった。医師に買われて、6週間にわたって何度か絶食や放血を受けさせられた。その後、家畜小屋に引き立てられ、馬のようにつながれて天然痘の膿を接種さえられたという。

 この恐ろしい仕打ちが、やがて、息子や赤の他人の子供に天然痘を接種するという人体実験への奇怪な情熱をジェンナー氏に掻き立てたとすれば、恐るべきトラウマというべきか、因果応報というべきか。

 

 わしらが今、ワクチンを打って「やったー! もう大丈夫!」などと喜んでいられる蔭には、このような悲しい事実があったのである。