ジェンナー 成功したからいいようなものの

 ワクチンというのは、おれの理解では病原の細菌なりウィルスなりに非常に似た、しかし毒性は弱いものを体に打ち込む。それでもって、病原に対する抗体を体内につくり、本物の細菌なりウィルスなりが入ってきたとき抗体に攻撃させる、とまあそんなものであるらしい(理解が間違ってたら申し訳ない)。

 えらいことを考えたものだなー、と思うのだが、このやり方を始めたのはジェンナーという人である。

 エドワード・ジェンナーは18世紀後半から19世紀初めの人で、田舎の医者であった。牛痘という病気にかかった人は天然痘にかからないという言い伝えをもとに、牛痘をジェームス・フィップスという少年に接種してみた。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/c/cf/Jenner_phipps_01.jpg

 でもって、しばらく経ってから今度は天然痘をフィップス少年に接種して、天然痘を発症しなかったので、よかったよかった、とまあ、そういう話である。このフィップスという少年がジェンナーの息子である、とされて美談扱いされていることもあるが、赤の他人だそうである。

 しかしまあ、実際、牛痘がワクチンの役割を果たしてフィップス少年が天然痘にかからなかったからよいようなものの、もし間違っていたらどうなっていたのだろうか。ジェンナーは天然痘を人の子供に接種して天然痘にかからせたマッド・ドクター扱いされたのではないか。ジェンナーにどれだけ確信があったかは知らないが、ハタから見ればイチかバチかの賭け、人体実験であって、今日の価値基準でいえばなかなかの児童虐待である。そう思って上の絵を見てみると、また違った味わいが出てくる。

 なお、ジェンナーの実の息子のほうは、フィップス少年で実験する7年前に天然痘(だけ)を接種されたんだそうで、これもなかなかマッド、というか、フィップス少年以上にヤバい話である。無事だったんだろうか。

 医学の進歩には犠牲は付き物なのです、などと言えるのは引いたところから他人事として見ているからである。まあ、ジェンナーさんのマッドさが結果的にうまく転がって天然痘は撲滅され、ワクチンの研究も進み、我々がその恩恵を受けているわけではあるが、何かこう、おれには、それでいいんだろうか、というモヤモヤもちょっと残るわけです。