イチョウの物語

 イチョウを見に、自転車で神宮外苑に行ってきた。

 手前に写っているイチョウはまだ完全に黄葉していなくて、緑と黄色が混じっている状態だ。奥の方に進むと黄葉しきっている木もあった。全てが黄色くなるにはもう一二週間かかるか。イチョウは秋の木という印象だったが、温暖化のせいか、すっかり12月の木になってしまった。

 絵画館を前にしたこの通りはイチョウの名所で、大勢の人が訪れていた。写真の奥の方ではイチョウ見物のためにクルマをシャットダウンして歩行者天国になっており、自転車でも通れないので、あきらめてすごすご帰ってきた。

 この写真は白金高輪で撮った。白金高輪にはイチョウ並木が続く美しい通りがある。

 ご覧の通り、まだ緑色のイチョウと黄葉したイチョウが並んでいる。日照時間なり温度なりが違っているとは思えないから、黄葉に関する個体のDNAが違うのだろう。

 桜のソメイヨシノは挿木で増える、つまりクローンで増える。ソメイヨシノがいっせいに咲き誇るのはDNAが同じだからである。生殖で増えるイチョウはDNAが個体によって違うから黄葉時期がずれてくる。

 これまでも何度か書いてきたが、イチョウには物語がある。

 イチョウ中生代に世界中で繁栄した古い種だが、やがて衰退し、11世紀ごろには中国の一部で自生するだけとなってしまった。しかし、葉の形の面白さや黄葉の見事さから中国の中で移植されるようになった。日本に伝わったのは13世紀頃らしい。ヨーロッパには日本経由で17世紀末に伝わり、18世紀にはヨーロッパ各地に観葉目的で移植されるようになった。今では世界中で見られる。

 美しさで、いわば芸の力で盛り返したわけで、植物の盛衰というのは面白いものだと思う。人間にたとえるなら、滅亡に瀕した人類が一度は小集団を残すのみとなったが、再び力を得て世界に乗り出していったというふうで、SFみたいでもある。