What a Wonderful World for 細菌

 抗菌グッズや殺菌成分の入っている石鹸など、細菌を“やっつける”発想の製品が広く出回っている。わたしもそうした製品を使うと、ちょっと安心な心持ちになる。

 しかし、日常生活から細菌類を締め出せばそれで健康な生活を送れるかというと、実はそう単純ではないようだ。まずは次の記事を黙ってお読みいただきたい(別にわめきながらでもかまわないが)。

→ ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト - 明らかとなった皮膚細菌の生息マップ

 かいつまんで言うと、我々の皮膚には今まで考えられていた以上に多様な細菌(バクテリア)が住んでおり、体の部位ごとに細菌の種類は大きく異なり、それぞれの部位ごとに細菌は小さな生態系を作っている、ということのようだ。また、そうした細菌の多くは皮膚を良好な状態に保つ役割を担っているらしい。

 皮膚上ではなく、腸内の細菌については割によく知られている。ビフィズス菌のような善玉菌と、ウェルシュ菌などの悪玉菌がおり、ビフィズス菌は悪玉菌の増殖を抑え、腸内の環境を良好に保つ役割を担っている。腸はビフィズス菌に住みかを与え、ビフィズス菌は腸内の環境を一定に保つわけだから、持ちつ持たれつの関係にある。腸内を完全に殺菌してしまうと、新しい細菌が外から入ってきたとき、あっというまに腸内を占領され、大変なことになるらしい。

 皮膚についても同様のことが考えられるのかもしれない。つまり、いろいろな細菌が皮膚の表面にいることで、細菌同士、やっつけたり、やっつけられたりし、バランスが保たれている。また、細菌の中には保湿成分を生み出すなどして皮膚を保護しているものもいる。それを、バイ菌、バッチい、死ね死ねとじっぱひとからげに殺菌すると、良い働きをする細菌も殺してしまい、また新しく付着した細菌の増殖を抑えることもできなくなり、皮膚を防護できなくなる、ということのようだ。

 かといっていわゆる“不潔”にしておいてオッケーということでもなかろうし、じゃあどうすればいいのかというと、残念ながらわたしにはわからない。記事を読む限り、皮膚に住む細菌についての研究はこれからのようだ。まあ、化粧品やケア用製品など、皮膚については商売になるから、これから研究がどんどん進むだろう。

 わたしがこの記事で特に惹かれたのは、皮膚の部位によって住んでいる細菌のありようが全然違う、というくだりだ。乾いた皮膚は不毛の砂漠の如くで、湿度のある皮膚の皺は小川の如くでそのまわりは細菌の多様性に富み、脇の下は熱帯雨林の如きだという。我々の体のそこここがミクロの生態系で成り立っているのだ。

 目に見えないせいであまり認識していないが、我々の住むこの世界は、実は細菌の支配する世界なのだろう。腸内の細菌を総計すると1kg〜1.5kgにもなるとか。さっさと降参しましょう。