オプティミストはなぜ成功するか

オプティミストはなぜ成功するか (講談社文庫)

オプティミストはなぜ成功するか (講談社文庫)

 タイトルだけ見ると、弁護士になってマンハッタンに事務所をかまえポルシェに乗ってバカンスはフロリダのビーチでサマーベッドに横たわりながら美女とカクテル、というようないかにもアメリカ流の「成功」に関する実用書に思えるが、そうではない(原題は“Learned Optimism”。「学ぶ楽観主義」といったところ)。楽観主義と悲観主義に関する本である。著者は、アメリカの大物心理学者。

 悲観的であるより楽観的であるほうが楽ちん。これはまあ、たいていの人がそう感じるところだろう。また、著者によれば、楽観的であるほうが仕事はうまく行くことが多いという。これもまた、割に了解されるところだと思う(ただし、職業にもよるのであって、鉄骨を載せたトレーラーの運転手が急カーブに猛スピードで突っ込みながら「いける、いける!」と楽観的なのも問題である)。

 この本の勘どころは、単に楽観主義と悲観主義について説明するだけでなく、悲観的な人も楽観性を身に着けられる、と具体的な方法論を説いている点。

 悲観が過ぎると、人間は無力感に襲われるという。無力感に襲われると、何かをやるのがシンドくなり、だんだんと何もしなくなっていく。例えば、ドアが押しても引いても、いくらやっても開かないと、人はやがて諦めてしまう。別の部屋に移されてもどうせダメだと思い込んでしまう、と、そういうことであるらしい。刑務所では受刑者がだんだん無表情になっていくというが、何か関係があるのかもしれない。

 著者は楽観/悲観は、何かが起きたとき、自分にどう説明するかによって左右されると言う。そうして、自分への説明には三つの軸がある。永続性、普遍性、個人性だ。

 楽観的な人は、よいことが起きたときに「私はいつも運がいい」と自分に言う。悲観的な人は、悪いことが起きたときに「私はいつも運が悪い」と自分に言う(永続性)。

 楽観的な人は、何かがうまくいったときに「わたしは何をやってもうまくできる」と自分に言う。悲観的な人は、何かで失敗したとき、本当は他のことはうまくできるのに、「私は何をやってもダメだ」と自分に言う(普遍性)。

 楽観的な人は、困ったことになったとき、「自分が悪いのではなく、たまたま状況が悪かったのだ」と自分に言う。悲観的な人は、困ったことになったとき、「わたしがダメなのだ」と自分に言う(個人度)。

 本当はもうちょっといろいろあるのだが、あんまり書くと、本の中の心理テストがうまくいかなくなる可能性があるので、このくらいにしておく。

 わかりやすく、例も面白く、実践的な本である。

 実は、わたし自身、ちょっとシンドいことがあったのだが、この本を読んでだいぶ構え方を変えることができた。何かシンドいことのある人には、力になるかもしれない。