昨日、歯を一本抜いた。
特に問題はなく、それはよかったのだが、途中で笑いがこみ上げてきて往生した。
歯医者の椅子に座って治療を受けている間は何もできない。アホウのように口を開けているばかりである。
しょうがないので、想念があたりをさまようこととなる。
昨日は、“歯を抜くというのも小規模な手術だよなあ”などと考えた。そこから想念が手術室方面へと向かった。
尾籠な話で恐縮だが、長い手術の最中におならをしたくなったらどうするのか? そんな疑問が湧き起こった。
例の、映画やテレビでおなじみの、手術室の光景である。
手術台のまわりを手術着の人々が取り巻いている。心音計がピ、ピ、ピ、と鳴っている。
執刀医の指示に従って、横の助手が道具を渡していく。
「メス」
助手がメスを渡す。
「鉗子」
鉗子を渡す。
「屁」
全員が鼻をつまむ。
……こうやって書いてみると、実にしょうもない。
しかし、歯医者の椅子に横たわりながらこれを想像した途端、むしょうにおかしくなった。
腹が波打ち、口のへりが上がるのがわかる。
口の中をいじっている歯医者が手を止めて、「痛いですか?」と訊ねた。
「い、いえ」と答えたが、それがまたおかしくなって、さらに強く腹が波打った。口のへりが上がった。
歯医者からしてみれば、歯を抜かれながらニターと笑っている、実に不気味な男であったろう。
笑いは、抑えれば抑えるほどおかしくなることがある。また、そういう状態になって笑いを抑えている、というのは実に苦しい。
いや、参った。