依然として殿山菌に冒されていて、ちょっと油断すると、ウーン!! とか、クヤシイ!! とか飛び出す始末だ。ぼくノーテンファイラー!! ああヨヨと涙が出る。
殿山菌の保菌者はこの手の殿山フレーズをついつい使いたくなるのだが、しかし、使うと、どこか不自然な感じになってしまう。
殿山フレーズだけを面白がって取り入れても、基本のビートがないので、浮き上がってしまうのだろう。
殿山泰司の文章には、素晴らしいビートがある。「三文役者あなあきい伝」より。
おれは、仕事もしたけど、仕事は今でもしてるか、仕事をつづけてるからこそ、今日まで何十年も生き永らえてるのやないか阿呆!! そうやなアごめんね。酒もよう飲んだわ。どうして? なんでエ? WHY? あんなに酒ばかり飲んでいたのであろうか。悪夢の如し。不可解。生きるのに苦しかったのかねイヒヒヒ。酒なんてウマイもんじゃない。酔うために飲むのである。ただただ酔うためだ。恥ずかしながら酒をウマイなアと思ったことは一度もない。それでもガボガボと飲んだわい。ウマクナイから目をつぶってグイグイと飲むんだ。目をつぶることはないだろうにアハハハ。
山下洋輔によれば、「クヤシイ!!」とか、「クソジジイ!!」とかの殿山フレーズは、ドラムのオカズ(節目、節目でダカトン!!、とか入るやつ)の役割を果たしているのだそうで、なるほど、高揚感を生むとともに、文章を次へ次へとドライブする感覚がある。
一方で、漫才の掛け合いのふうでもある。もっとも、近頃、イッパンタイシューが多用する「ツッコミ」などと呼んでしまうと、安っぽくなってどうもいけないイヒヒヒ。
殿山泰司の中には、シリアスで、放っておくとのっびきならぬところへ行ってしまいそうな者と、そんなオノレを別の眼で眺めていて、時にせせら笑い、茶化す者がいて、それでどうやら世間と折り合いをつけているようにも感じる。
自問自答(と呼んでいいのか?)で足りない場合は、バアサマ(殿山泰司の同居女性)が登場して、殿山泰司を現実に引き戻すこともある。
(稲本:この頃はギャラの前借りをできなくなったという話の後で)おれにとっては、この世の中というものは、おれたちの住む社会は、日進月歩をしないことになっとる。日進月歩どころか後退や。大後退は霧深し。なんちゅう言葉や。アイツを殺せ!! アイツとはダレや? そのうち教えたるウ!! 阿呆んだら!! バカタレ!! みんな死んでしまえ!!
「オマエさっきから、死ねッとか、死んでしまえッとか、そやそや、この前もそんなことを言うてたな、それは何かいな、わいに向って言うてるのか?」バアサマのドスのきいた声である。
「ちがいます、国家と、その主脳部に対してであります」
「わいのこととちがうねやな?」
「はい、ちがいます」
「ふーん、うたがわしいけどウ、まアええわア、めしイ食わしたるウ」
「ありがとうございます!!」
殿山泰司のココロのトランペットが、朗々と切ないフレーズを吹き始めると、ピアノが「ああ、クサイ!! クサイ!!」と別のサウンドをかき鳴らし始め、ドラムが「おのれの柄じゃないわい」とドカスカスカタスカタスカタタ……。そうやって、殿山楽団の演奏は成り立っているようでもある。
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「今日の嘘八百」
嘘七百九十八 人生はゲームではない。福引きである。