ジャンルと文章

 昔から不思議なのだが、クルマの広告やカタログに載っているコピーというのは、驚くほどよく似ている。


 SUVや低価格のクルマはちょっと違うのだが、ある程度以上の価格(200万円以上くらいか)の、セダンやスポーツタイプのクルマのコピーは、どれも同じような言葉遣いだ。


 試しに、昨日の新聞広告(金曜日はクルマの広告が多い)から、固有名詞を伏せてコピーを抜き書きしてみよう。


躍動美あふれるフォルムに心奪われる。刺激的な走りに心を解き放たれる。
かつてない真のミッドシップクーペとの出会い。五感の全てで感じる○○の真価。
未知なる世界の扉は、一瞬で開かれる。
○○――瞬時にみなぎる血統。


思想は、受け継がれる。すべての技術は、磨かれる。
そして、自動車の完成度は極められていく。
理想を貫くことでつくられた一台は、
オーナーとの絶対的な信頼関係を築きあげていくことができる。
代わるもののない存在、○○。
○○のある人生を、走りませんか。


どこまでも途切れない加速、どこまでも走りたくなる低燃費。○○新登場。○○エンジンが最小限のガソリンから最大のパワーを生み、7速○○が瞬時の変則でムダなく伝達する。ふたつの新開発技術を組み合わせ、胸のすく走りとともに高度な燃費・環境性能を実現しました。斬新な発想と妥協を知らないクルマづくりが、常識を破る多彩なテクノロジーに結実。さまざまなモデルでその技術力をお確かめください。


プレミアムセダンの新たな鼓動が、ここにある。○○。
その最新の直噴テクノロジーによる○○エンジンは、
俊敏なパワーと先代モデルに比べて最大9%の燃費向上を実現。
新設計のレイアウトにより、最適な前後重量配分となったボディは、
優れた運動性能を発揮。操れば、かつてない瞬間が次々と訪れます。


○○。
個性が際立つプレミアムサルーンとエレガントな
エステートが、そのデザインを一新。
さらに多彩な魅力を備えて登場。
すべてのモデルが、卓越したドライビング体験を提供。
すぐれたクオリティと洗練、日常を特別なひとときへと
高めるラグジュアリーに満ちあふれています。


「躍動美」、「心奪われる」、「五感」、「真価」、「未知なる」、「極められていく」、「理想」、「信頼関係」、「胸のすく」、「斬新な」、「鼓動」、「俊敏な」、「卓越した」、「洗練」、「ラグジュアリー」と、こう言葉を抜き出すと、そのめくるめく大仰さに軽く目眩が起きる。


 また、「かつてない」、「代わるもののない」といった「ない系」の言葉遣いもクルマのコピーの特徴で、上の例にはないが、「このうえない」、「かけがえのない」という言葉もよく見る。


 高い買い物だから、こういう夢見るような“ラグジュアリー”な言葉遣いになるのだろうか。
 意地の悪い見方をすると、酔わせて何とかしてしまおう、という悪い男の手口に見えないこともない。


 上の文章を、テキトーに組み合わせて、架空の広告コピーを作ってみる。


プレミアムセダンの新たな鼓動に、心奪われる。
その斬新な発想と妥協を知らないクルマづくりが、
オーナーとの絶対的な信頼関係を築きあげていく。
五感の全てで感じる、真のテクノロジーとの出会い。
○○。かつてない瞬間が、ここにある。


 多少のデコボコはあるが、それっぽくなってしまうところが、オソロシイ。

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「今日の嘘八百」


嘘七百八十一 実は全部同じ人が書いているのだそうです。