〜万部突破

 新聞広告を見ると、本の広告で「〜万部突破!」と記してあるものが多い。


 昔からこの手の書き方はあると思うが、今ほどやたらとは書かなかったように思う。


 映画の広告にもこれに類する惹句は多くて、「全米初登場観客動員数No.1!」とか、「公開3日間興行収入第1位!」とか、1位なのはわかるが、条件が妙に細かかったりする。


 意地の悪い見方をすると、「初登場No.1」とは、フタを開けたら観客にとって期待はずれで、あっという間に他の映画に抜かれたということではないか、とも思うのだが、ともあれトップであったことを売り文句にする。


 今朝の新聞広告から、「〜万部突破!」とか、それに似た表現をしている本を取り上げてみよう。
 タイトルの一部を伏せ字にするが、検索エンジンに引っかかって、ちゃんと本の内容を知りたい人に迷惑をかけないためで、他意はない。


大好評! 4刷!! 「結果を出して 定時に帰る時●術」


発売たちまち10万部突破! 「悩む●」


発売忽ち重版! 7万部 「仕事に役立つマ●ンドマップ」


25万部突破! TBS系「情熱大陸」出演! 「効率が10倍アップする 新・知●生産術」


20万部突破!! 「食堂かた●むり」


15万部突破!! 全国優良書店で続々ランクイン!! 「インディペン●ントな生き方 実践ガイド」


8万部突破! 「4-●-3-1 サッ●ーを戦術から理解する」


35万部突破! 「お金は銀●に預けるな」


 こう並べてみると、食傷に似て、さすがに少々ゲンナリする(まあ、そういう効果を狙って並べたのだが)。


「〜万部突破!」を謳うその根っこには、もちろん、我々のお墨付き心理があるわけだが、一方で出版業界の構造不況も関係しているのかもしれない。いいことがあると、パン、とクラッカーを打ち鳴らしたくなるのはよくわかる。


 本も、あるいは映画も、お金を出す前に中身を知る手段は限られている。立ち読み・予告編のほかは、書評・映画評、口コミくらいだろうか。
「〜万部突破!」とか、「興行収入No.1」と書くと、中身について大勢の人が認めたように見えるのだろう。


 もちろん、実際にはそんなことはなくて、本当は、それだけの人がお金を出した、とだけしか言っていないわけだが。
 読んで/見てがっかりしたかもしれないし、あるいは、例えば、映画の試写の後とおぼしきCMで、若い娘さんが「もう、サイッコ〜でしたぁ〜」などと頭の中までピースな状態で、全開でヨロコんでいる姿を見ると、「この子と同じレベルでいいのだろうか?」と考えさせられる。


 まあ、こういう手法も、あまり使いすぎると、人々が慣れっこになってしまい、効果が薄くなってしまうように思う。同じ薬を使いすぎると、体が慣れてきて、効かなくなるのに似ている。
 映画の「興行収入No.1」の類は、そろそろそんなふうになってきているんではないか。


 次のは、一週間ほど前の新聞広告で見かけた健康食品の広告。


発売以来累計70,000,000袋突破!! 「伝統にん●く卵黄」


 このくらい、豪快な数字を見せられると、「おお!」と思うのだが。

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「今日の嘘八百」


嘘七百六十五 「北風と太陽」の太陽は、自分の行動が及ぼす広範囲の影響について、すっかり忘れていると思います。