笑う門には福来たる、と言う。
笑い声の多い家には福が訪れる、というような意味だ。噺家が売り込みも兼ねてか、よくマクラで使う。
この言葉、わたしはあまり好きでない。
淡々と、統計なり何なりをとって、客観的事実として、笑いの多い家は実入りが多いとか、人生の満足度が高いとかいうなら、別にいい。ははあ、そうですか、てなもんだ。
しかし、どこかこの言葉、だから笑いなさい、というお説教くささがにおう。
福なんぞ来ようが来まいが、笑うことはそれ自体が快感だから、それで十分じゃないか、と思う。
また、福が来ることを狙って笑う、というのも不純というか、だいぶ品が下るように思う。
例えば、こんな家族があったとしたらどうか。
朝食の場で――。
母「ほら、ヒロシ。早くご飯食べなさい。また学校に遅刻するわよ。今日、遅刻したら今月5回目よ。おほほほほ」
ヒロシ「だって、ママが寝坊したからじゃないか。あはははは」
父「その通り! ははははは」
母「そういうお父さん、ネクタイを裏返しに締めてるわよ。おほほほほ」
父「わ。本当だ。こりゃいけない。お父さん、大失敗の巻。はははは」
ヒロシ「――」
父「どうしたんだ、ヒロシ。あはは」
ヒロシ「いや、あんまりおかしくなかったから……」
母「ダメじゃないの。笑わなきゃ。おほほ、おほほ」
父「そうだぞ。そんなことじゃ、福が来ないぞ。頑張って、ほら、福が来るように、笑って。笑って。ははは。笑っているうちにおかしくなるから。笑って。ははは、ははは」
ヒロシ「うん。そうだね。僕が間違ってた。あははは」
父「わかってくれたか。さすが、おれの息子だ。はははは、はははは」
母「あら、私の息子よ。おほほほ、おほほほほほ」
ヒロシ「あははははははははははははははははははははは、はは」
父「はははははははははははははははははははははははは、はは」
母「おほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほ、ほほ」
福が来ることをひたすら願って、必死の形相で笑い続ける一家。どんだけ不幸なんだ、と思う。
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「今日の嘘八百」
嘘七百三十九 ヒロシが中学入学と同時に、あっという間にグレたのは言うまでもない。