王子様の行動

 グリム童話にはよく王子様が出てくるが、行動がどうも尋常でない気がする。


 例えば、「眠れる森の美女」の王子様は、森(の中の城)を訪れて、眠っている王女が美しいというのでキスをする。


 おいおい、と思う。眠っているからいいというものではあるまい。
 例えば、わたしが電車に乗って、隣に座って眠っている女の子があまりに可愛いというので、チューをしたらどうなるか。おそらく、これまでの人生で得たいろいろなものを手放さなければならないだろう。


 ちなみに、眠っている王女が目を覚ましたのは、王子様がいきなり舌を入れてきたからだ、という説があるが、これは以前にわたしがこしらえた嘘である。反省しています。


「シンデレラ」の王子様も、グリム版ではなかなかひどい。


 ご承知の通り、シンデレラ(グリム童話ではアッシェンプッテル嬢)は舞踏会から帰るときに靴(ガラスの靴という設定がメジャーだが、グリム童話では金の靴)が脱げてしまう。


 王子が、靴の合う娘を国中から探す、というのもいささか無茶だが(諫める家臣はいなかったのだろうか)、そもそも、シンデレラの靴が脱げたのは、王子が階段にピッチ(石油やコールタールを蒸留した後の滓)を塗らせておいたからだという。発想がゴキブリホイホイと同じだ。問題の多い王子である。


 だいたい、自分が踊った娘の顔ではなく、足形を重視するというのは常人の発想ではなかろう。


「白雪姫」の王子様は、棺におさまっている白雪姫を見て、七人の小人に「死体でもいいから」などと言い出す。それではネクロフィリアではないか。


 しかも、白雪姫が生き返ったのは、棺を運んでいる家来が疲れて、憂さ晴らしに白雪姫を棺から出してぶん殴ったからだという。主人も主人なら、家来も家来である。
 王子の行動の異常性の故に、家来達の心にもどす黒いものが沈殿していたのかもしれない。


 いずれの王子も、将来、名君とはなり得ない気がする。


 ん? もしかして、同じ王家だったのか? 「眠れる森の美女」の王子の息子が「シンデレラ(アッシェンプッテル)」の王子で、そのまた息子が「白雪姫」の王子、とか。


「祖父ちゃんだってよー、森の中で寝てたネエチャンにいきなりチューして嫁さんにしちゃったんじゃんかよー。死体くらい、もらってきたっていいじゃん」


 もしそうなら、何かこう、荒んだ家系である。領国には、暗雲が広がりつつあったと思われる。


(なお、グリム童話は、版によってストーリーの細部が違うそうなので、念のため)

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「今日の嘘八百」


嘘六百五十六 バカボンのパパが王様、バカボンのママがお后様。勇者バカボンがお姫様を救いに旅に出る大型RPGバカボン・クエスト・シリーズを企画中。