通り名というのか、講談・浪曲の侠客伝には、本名とは別のあだ名がよく登場する。「ナンのナニガシ」という例のあれだ。
出身地を名乗ることが多くて、有名な清水次郎長もそう。本姓は山本さんだ。
清水湊の生まれで、次郎八の養子の長五郎だから、清水(しみずの)次郎長。
子分にも森の石松(森町村の出)、大瀬の半五郎なんてふうに出身地を通り名にしている連中が多い。中には関東の綱五郎なんていう大ざっぱなのもいる。
しかし、出身地ではなく、他のものを通り名にしているほうがいろいろと想像がふくらんで楽しい。次郎長一家でいえば、法印の大五郎、桶屋の鬼吉なんていうのがいる。
「お富与三郎」なら、切られ与三郎(あるいは切られ与三)に悪党で蝙蝠安(こうもりやす)。
歌舞伎、講談で有名な幡随院長兵衛の子分にもいろいろいるようだ。
講釈ネタ「芝居の喧嘩」に出てくるのだと、雷の十五郎、闘犬権兵衛、放れ駒の白兵衛、白鬼権左なんてのがいる。いいねえ。
中でもわたしの好きなのが、釣り鐘弥左衛門という人で、寺の釣り鐘を手玉に取った怪力からこの名がついた。
幡随院長兵衛の子分だが自分でも子分を持っていて、幡随院長兵衛の子分で釣り鐘弥左衛門、そのまた子分で半鐘の八右衛門、そのまた子分で風鈴の源兵衛と、だんだん小さくなる――というのは立川談志がやっていたくすぐり。風鈴ってのがいい。
サラリーマン/OLの方は、自分の部署内でいろいろ通り名をつけてみたらどうだろう。
ファックスの誠、ゼムクリップの智子、給湯室の大輔、システムエラーのおゆう、今いちぱっとしない。
誰は何がいい、あいつはあれだ、おれはこう名乗る、なんてことをワイワイ話し合っていると、週の終わりの金曜日、一日楽しく過ごせると思う。
ま、そのうち上司がクビになるかもしらんが。
-
-
-
-
-
-
-
-
- -
-
-
-
-
-
-
-
「今日の嘘八百」
嘘五百六十七 お釈迦様の「天上天下唯我独尊」の精神は、二千五百年の時を経て、ラッパーに受け継がれているという。