喋る内臓

 相変わらずのバカ脳で、役に立たないことばかり思いつく。


 先日、いささか体調の悪いときに「今日みたいな日は、内臓が喋り出したらうるさいだろうなあ」と考えた。


 胃は食った飯に「ああ、ダメダメ! 今日は帰れ。追っぽりだすぞ!」と脅かすし、腸は「うわ、何か変な菌が」と騒いでるし、腎臓は「ああ、もう無理」とあきらめ顔で、肺は「♪痰、痰、痰タタ痰」と文字通りハイで、肝臓は「やってらんねえ」と仕事を放り出してしまう。


 わたしは生来、蒲柳の質で、今、こうやって生き延びているというだけで、自分に拍手をしてやりたくなるくらいだ。
 蒲柳の質なら蒲柳の質なりに健康に気を配ればいいのだが、そういうことがどうも面倒くさくってしょうがない。
 内臓にはだいぶ不満がたまっていることだろう。


胆嚢「おう、なんか腸の野郎が暴れてるみたいだけど」
胃「そら暴れるよ。友達にひさしぶりに会ったかなんだか知らないけど、どんだけ飲みやがったか。最後に食道からウォッカのストレートが降ってきたときゃあ、おらあ、爆弾が落っこちてきたのかと思ったぜ」
胆嚢「おめえは無事なのかよ」
胃「無事なもんかよ。さっきまで気息奄々よ。歯ァ磨きやがったついでに、朝飯、戻してやった」
口腔「いい加減にしろ、馬鹿野郎。酸っぱくてしょうがねえ」
胃「いや、すまねえ、すまねえ。おめえ、ゲロ、苦手だったよな。しかし、二日酔いってのは、夕方になるとぴたっと治るから不思議だね」
胆嚢「肝臓先生がその頃までに、どうにか始末つけてくれてんのよ」
胃「先生、いつもありがとよ。ホント、頭上がらねえや」
肝臓「……」
胃「なあ、元々、無口な人だけどよ、なんか、最近、変じゃねえか」
胆嚢「うん、γ-GDPがだいぶ来てるらしい」
胃「うちの親方、無茶だからねえ。『お酒飲む人 花ならつぼみ 今日もさけさけ 明日もさけ』ってネ」
胆嚢「無茶といやあ、何年前だか、入院したときはひどかったな」
胃「ああ。二週間、飯食えなかったときな。日干しってのがどういうもんか、あんとき初めてわかった」
胆嚢「おめえは飯が来ないだけだからまだいいけどよう、こっちは黴菌が入り込んで大変よ。なあ、膵臓
膵臓「おうともさ。内視鏡まで突っ込まれてよ。普通、内視鏡ってのは胃とか、せいぜい大腸とか見るもんだぜ。おれや胆嚢まで見なきゃいけねえってのは、よっぽどだったんだな」
胆嚢「ありゃヤだねえ。胆管からぬっとレンズが出てきたときには、おれ、びっくりしてひっくり返っちゃったよ」
胃「胆嚢がどうやったらひっくり返れんだ(笑)」
膵臓「親方ァ、管突っ込まれて口がきけないもんだから、アガアガ、言ってよ。声になんねえの。あんときゃ、ホント、笑ったぜ」
全員「あははははははは」
肝臓「……んぐ」
胃「ん? 先生、どうした」
膵臓「なんかあったのかい」
胃「いや、肝臓先生がさ。ちょいと、先生。先生。……起きねえよ」
胆嚢「うわ、先生の体からなんか変な汁がにじみ出てるよ」
膵臓「わ。毒だ」
胆嚢「うわー」
膵臓「うわー」
全員「うわー」

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「今日の嘘八百」


嘘四百九十六 悪妻を持ったから哲学者になるのではない。哲学者になるから悪妻ができあがるのである。