虫の知らせ

 わたしの母はごく普通の人なのだが、霊感が強いのか、いろいろと不思議な体験をしている。


 わたしが幼稚園か小学校低学年の頃で、母とふたりで庭にいたときのことだ。
 母がふと「○○(兄の名)に何かあったような気がする」とつぶやいた。
 まもなく家の電話が鳴った。兄が交通事故にあったという知らせだった。


 祖母がまだ生きていた頃、夜中に母はふと目が覚めた。
 嫌な胸騒ぎがして祖母の部屋に行くと、祖母が血を吐いて倒れていた。
 あわてて救急車を呼び、祖母は一命をとりとめた。朝まで誰も気づかないでいたら、危なかったという。
 もっとも、これなぞは祖母の倒れる音で目が覚めたとも考えられる。


 虫の知らせというのは本当にあるのだろうか。


 春先に、母の友人が亡くなった。急死だった。
 ちょうど亡くなった時刻に、家族や仲の良かった人達のところに、それぞれ虫が来たという。
 母のところへは、季節はずれの蛾が来た。


「虫の姿をとって、別れの挨拶に来たのかねえ」と、通夜の席でひとしきり話題になったそうだ。文字通り虫の知らせである。


 他の人達は、家に入ってきたその虫を、その時点では亡くなった友人の挨拶とは思わぬながらも、そっと外に逃がしてやった。
 母だけは蛾を、新聞紙を丸めて、ウリャッ、と叩きつぶした。


 後で非常に気まずい思いをしたという。

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「今日の嘘八百」


嘘四百八十五 わたしは美人を見ると胸騒ぎがするのだが、だいたいが騒ぎ損である。