小野道風

 小野篁の孫が小野道風(みちかぜ、とうふう)である。


 書家として有名だが、書を実際に見たことのある人はそんなにいないだろう。


 じゃあ、なぜ有名かというと花札になっているからで、例の、柳の葉に蛙が飛びつこうとしている絵である。


 蛙が何度も、何度もチャレンジするのを見て、一念発起。書の道に励んで、アッパレ、天下の大名人となった、とまあ、そんな逸話である。


「蛙→柳」を「自分→書の道」と置き換えたわけで、こういうのを相似というんだったかな(写像ってのもあったような……)。中学校か高校でそんなふうに習ったような、おぼろげな記憶があるのだが、まあ、いいや。


 考えてみれば、「自分→書の道」と置き換えたからメデタシ、メデタシとなったわけで、もし「蛙→柳」を「自分→柳」と置き換えていたら、エラいことになっていた。


 何度も、何度も諦めない蛙の姿に一念発起。「ヤーッ!」と自分も飛び上がって、柳の葉をつかんだはいいが、当然、柳の葉に道風を支えるほどの強さはない。
 道風先生、わーっと落っこちて、したたか腰を打つ。書家ではなく、間抜けな蛙野郎として後世に伝わったことだろう。


 運の悪いことに、落っこちた先にはくだんの蛙がいた。体の下でグチュッという嫌な音がして――これ以上はやめておく。