前の小泉内閣は、「頑張った人が報われる社会」というスローガンを掲げていた。
頑張らにゃならんのか、はああ、と、わたしなんぞは困ったような心持ちになったものである。
でもって、安倍内閣に代わると、今度は「再チャレンジ」などと言い出した。
チャレンジせにゃならんのか、と、随分、落胆したものである。
どうもなかなか、楽に生きていくということは難しい。
落語に甚兵衛さんという人物が出てくる。
人間がポーッとしていて、“ついでに生きているような人”と言われる。
“ついでに生きているような人”。誰が考えたか知らないが、いいフレーズである。
“ついでに生きている人”ではなくて、“ついでに生きているような人”だから、ぽわわんとしていいのだ。
わたしはこの甚兵衛さんという人が好きで、憧れている。特に、古今亭志ん生の「鮑のし」(「ザ・ベリー・ベスト・オブ志ん生 vol.6」、東宝ミュージック)に出てくる甚兵衛さんがいい。
「鮑のし」の甚兵衛さんは、何だか今日はやんなったから、というだけの理由で、仕事をよしてしまう人だ。
働き者ではなさそうだが、怠け者というふうでもない。「何だかやんなった」から仕事をよしとく。それだけの人だ。
でもって、人からからかわれたのも気づかずに、寺の屋根に鳳凰が下りてくるのをぼーっと待っていたりする。
そんなところが、いかにも“ついでに生きているような人”らしい。
足りないといえば足りないのかもしれないが、与太郎とはちょっと違う。
与太郎はバカであることに積極的だが、甚兵衛さんはただポーッとしている。バカなのかどうか、よくわからない。