井戸を覗くと

 山手線の車両にはドアの上に液晶モニターがついている。
 BSAという団体のCMがよく流れる。


 会社員とおぼしき若い男女が出てきて、あたりを見回してから、
「違法コピーだらけの会社なんてイヤだー!」
「違法コピー使わせる社長なんてサイテー!」
 と壁に向かって叫ぶ。


 すると、壁から携帯電話が出てきて、通報先の電話番号などとともに「ソフトウェアの違法コピー 通報はBSAへ。」と表示する。最後に「通報者の秘密は守ります。」で終わり。


 ソフトウェアの業界団体が、会社員に違法コピーの内部通報を勧める、と、そういうものであるらしい。


 CMを見ながら「『密告者の秘密は守ります。』にしたら、もっとパンチ効くだろうなあ。『通報者の秘密はなるべく守ります。』なんてのも、無責任でいいなあ」などと考えつつ、ちょっとだけヤな感じもするのである。


 ナンダロネー、このヤな感じ、と、井戸を覗くと、どうやら密告の後ろめたさのようだ。


 法律方面については知らんけれども、たぶん、この団体がやっていることは法的には間違っていないのだろう。
 一方で、会社の中には、何つーか、身内・仲間内の仁義、村には村の不文律、みたいなものがあって、そういうのに反するように、わたしは感じるのだと思う。


 いやね、通報はいかんと言ってるわけではないですよ。自分にも染みついている身内感覚、仲間内感覚を再発見して、おもろいなあ、と思っているだけで。