亜細亜の曙

 小学生の頃に、山中峯太郎の「亜細亜の曙」という戦前の少年向け冒険小説を読んだことがある。


 家にあったのか、自分で買った(買ってもらった)のかは覚えていない。


 私の父は戦前生まれで、終戦のときに10歳だから、あるいは父が懐かしくて買ったのを、わたしが読んだのかもしれない。


 これがあっと驚くほどに面白く、血湧き肉躍らせた覚えがある(肉が躍るんだからねえ)。


 冒頭で、日本軍の秘密書類が敵国に盗まれる。
 日東の剣侠児(こういう通り名まで覚えている)本郷義昭なる主人公が登場し、秘密書類の行方を追う。
 ハラハラドキドキの冒険行の果てに、敵国の基地に潜入して大活躍、と、まあ、そんな話だったと思う。


 なぜか途中でインドの王子が登場して、「我々は日本を亜細亜の魁と仰ぐ」というようなセリフを言ったのを覚えている。


 八紘一宇という言葉が出てきたかどうかは覚えていないが、物の捉え方には共通するところがあるだろう。


 それから幾星霜。
 当時、血湧き肉躍らせていたガキは、斜に構えて歩きにくくてしょうがない日東の偏狭児と化した。
 しかし、今でも話を結構、覚えているんだから、「亜細亜の曙」は当時のわたしのガキ心に相当、インパクトがあったのだろう。