またも不器用話

 よくやる不器用話になるけれども、しばしお付き合い願いたい。


 何のことかわからない方もいらっしゃるだろうから簡単に説明しておくと、わたしはひどく不器用で、いろいろ困ることがある、という話だ。


 例えば、鍵穴に鍵を差し込む、ということがなかなかできない。
 財布から小銭を出そうとして、うまくつまめない。他のコインをつまんでしまう。おまけに落っことす。銭形平次じゃなくて本当によかったと思う。
 お札をつかむのも苦手だ。特に新札が重なっていると、より分けるのに苦労する。


 駅の自動改札にカードを入れようとすると、縁に当たって、へごっと曲がる。何だか萎える瞬間だ。
 ここまでひどいと、一種の障害として認めてもらってもいいんじゃないか、と思う。


 チェコの作家、カレル・チャペックのエッセイから。


 運命の特別な悪意によって、ハンディキャップを負うている人たちがいる。その人たちは不器用者と呼ばれ、その人たちの手中にある物はにわかに生き返り、自分勝手でいささか悪魔的な気質を示すことさえできるかのようである。むしろ、その人たちは魔法使いで、ちょっと触るだけで生命のない物に無限の精気を吹き込むのだともいえる。わたしが、壁に釘を打ち込もうとすると、手の中の金槌がなんとも不思議な押さえきれない活気を呈して、壁とかわたしの指とか、近くの窓とか部屋の反対側にぶち当たる。小包にひもをかけようとすると、ひもの中にまさに蛇のような狡猾さが突発する。のたくり、手に負えなくなり、ついにはそのお気に入りのトリックだが、わたしの指をしっかりと小包に縛り付けてしまう。(「不器用者礼賛」、「いろいろな人たち」〔カレル・チャペック著、飯島 周編訳、平凡社ライブラリーISBN:4582760902〕所収)


 その通り、わたし達は魔法使いなのだ。ただ、自分で魔法を全くコントロールできないだけで。


 そんな具合であるからして、向かない職業というのは多い。


 大工、左官、彫金師等々、職人はまず無理だ。


 スナイパーにもなれない。
 要人の暗殺を請け負って、ビルの屋上から標的の頭を狙う。サイレンサー付きの銃でパシュッ。
 木からなぜだか猿が落ちる。