温床

 少し前に、社会保険事務局・事務所が大量に年金不正免除をしていたことがバレ、問題になった。その後、どうなったかは知らない。


 もうこうなりゃ、年金保険料は寄付しているつもりになったほうが、いいのかもしれない*1


 でもって、生き恥さらして受給年齢になり(もっとも、わたしは生まれた直後に看護婦にチンチン見られて以来、生き恥さらしっぱなしだが)、運よくいくらかもらえるようだったら、宝くじの4等くらいに当たったと考える。そうすりゃ、気分もいくらかよかろうというものだ。


 実を言うと、わたしには、社会保険事務局・事務所の職員の感覚が少しわかるのだ。


 公的企業とされる会社に1年だけ勤めていたことがある。


 学校出てすぐの林家ペーペーの頃だ。半年ほど、営業所で集金業務をやっていた。
 何をやるかというと、金を払わないやつのところに行って、「ナニナニさーん」、ドンドンドン、とやるのだ。


 わたしも若くてお金がなかった。「イナモトさーん」、ドンドンドン、とやったら自分の家だったことがある。嘘である。


 でまあ、これが悪徳金融業者なら、会社にファックスを送るとか、東南アジア方面の特殊な病院を紹介するとか、いろいろあるのだろうが、何しろ、公的企業である。
 ほとんどライバルがないに等しいぬるま湯的会社で、社員はガッツと切実さに欠けた。わたしにも欠けた。


 未納者の中には、逆ギレというのか、なんのかんのと文句をつけてくるのもいた。
 そういうのをどうするかというと、未納者の台帳にメモをつけて先送りしたり、特に面倒な相手に対しては担当者や係長の裁量で減額や免除をしたりするのだった。


 あの集金業務の人々(わたしもその一員だったのだが)に、罪の意識があったかというと、ほとんどなかったと思う。


 彼ら・彼女らは、業務を円滑に進めることが大切と考えていた。業務を円滑に進めるとは、大きな問題を起こさないということだった。減額や免除はそのためだった。また、少々、面倒くさくもあったのだろう。


 もちろん、彼ら・彼女らが行っていたのは、会社に対する一種の不正であり、背任とも言えるかもしれない。
 しかし、そういう行為に対する自浄の動きを、少なくともわたしは感じなかった。


 別に、わたしのいたところや、社会保険事務局・事務所のふるまいを正当化したいわけではない。


 脅威となるライバル組織や、中立で強力なチェック機関(チェックするやつのモチベーションを、どうやったら高くできるのかわからないが)がない限り、あの手の“裁量”による不正は行われると思う。心理というのは、だいたい、そんなようなところだろう。


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「今日の嘘八百」


嘘二百十八 アバの「Dancing Queen」は、森鴎外の「舞姫」にインスパイアされた。

*1:厚生労働省は、年金を「世代間の助け合い」なんていう、くだらない美辞麗句で語るのは、もうやめたほうがいいと思う。「そうだよなあ、世代間の助け合いだよなあ」なんて素直に感じ入るやつは、ほとんどいないだろうから。