なさい

 本屋に行って、実用書のコーナーの前を通ると、「〜なさい」というタイトルの本を大量に目にする。


 わたしはおよそ実用の役に立たない男で、それは実用書を読んだからといって、どうにかなるレベルではない。
 なので、素通りするだけなのだが、なぜ顔も名前も知らない赤の他人から「〜なさい」と命令されねばならぬのか、甚だ理解に苦しむのである。


 雀、忠と鳴き、烏、孝と鳴く。鳩に三枝の礼あり。人の世は互いを敬する心によってうるわしく保たれるのだ。などと、とっさに思いついたことを素早く書いておく。


 Amazonの和書で、「なさい」と検索してみた。


営業マンは1秒で変わりなさい―顧客を一瞬にしてつかむ45の法則


 冒頭に来たやつだ。かなりの無茶を言う。1秒で変わるのも大変だが、法則を45も覚えなければならないところがシンドい。


8つの手相が明かす!あなたの運命―見なさい、知りなさい、考えなさい!


 何だか叱られている気分になってくる。
 スンマセン、見てなくて、知らなくて、考えてなくて。


僕の会社に来なさい


 藪から棒に来た。いったい何だ、このエラソーな態度は。知りもしないやつから。
 行ったら、どうしてくれるのか。お茶でも入れてくれるのか。


株なら今すぐ「デイトレ&スイング」で儲けなさい


 いや、「今すぐ儲けなさい」と言われてもねえ……。
 まあ、儲かるにこしたことはないが、今すぐ、ですか?


借金で会社を潰す社長、会社を生かす社長―事業と有能な社員を守りなさい


 事業と有能な社員を守りたくない社長っているのだろうか。なまじ全てを無理に守ろうとするから、借金で会社を潰す気もするのだが。


あなた、強く生きなさい。


 す、スンマセン……。
 ちなみに、この本の著者は藤原てい。数学者・藤原正彦のお母さんだ。


 どうも、「〜しなさい、〜しなさい」と言われ続けて、グロッキー気味だ。
 そこで、テクマクマヤコンと魔法をかけて、ヤコヤコにしてみた。


営業マンは1秒で変わりましょう


8つの手相が明かす!あなたの運命―見ましょう、知りましょう、考えましょう!


僕の会社に来ましょう


今すぐ「デイトレ&スイング」で儲けましょう


事業と有能な社員を守りましょう


あなた、強く生きましょう。


 そうしましょう!


 ……などと、ザマーミロと書いていたら、母親から電話がかかってきた。


「ヨシノリ! 謝りなさい!」


 ごめんなさい。


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「今日の嘘八百」


嘘七十五 「伊豆の踊子」は最初、伊東の年増ストリッパーの小説になる予定だった。