そんなことより、もっと気にかかるのは、藤原正彦の「〜人論」が異様に単純化したものだということだ。
いや、「〜人論」を単純化(短絡化といったほうがいいかもしれない)するのは、彼に限った話ではない。
しかし、「国家の品格」は何十万部だか、相当なベストセラーになっているという。
買った人のみんながみんな、単純化した「〜人論」に納得するわけではなかろうけど、少なからぬ人が「なるほど、そうなのか」と信じ込むだろう。
こんな文章がある。
例えば親孝行。親孝行なんて最近は廃れていますし、アメリカやイギリスに行ったら誰もそんなことは考えない。年を取れば老人ホームに入るのが当たり前というような国柄です。
アメリカやイギリスの親思いの人が読んだら、憤激するだろう。老人ホームに入るかどうかとは関係なく。
藤原正彦の分け方は、非常に大ざっぱで、日本人でひとくくり。そして、欧米人でひとくくりだ。あまりに乱暴である。
「論理だけでやっていけない」のは確かだが、ここはあえて論理で行こう。
集団Aに含まれる個人BがCという性格を持っているからといって、集団AがCという特質を持っていると言えるだろうか?
数学の集合の、あまりに初歩の話だけれども。
最近、デンマークの大衆紙がムハンマドをからかった風刺漫画を載せたせいで、デンマーク大使館が放火された。デンマーク商品の不買運動が起き、一部の国ではデンマーク国民に出国が勧告された。単純化の怖さを感じる。
「国家の品格」のカバーには、内容紹介文として、こんな文句が書いてある。
すべての日本人に誇りと自信を与える画期的提言。
馬鹿を言え。わたしだって、日本人だ。いっしょくたにするな、と思う。
こんな文句で本を売ろうとする編集者の性根こそ、もし考えが足りないのでなければ、藤原正彦の嘆いている金銭至上主義であり、卑怯だと思う。
(4/24付記:検索でこの文章に行き当たってご覧になる方が多いようです。これを書いたときには、「国家の品格」をコキオロスことに暗い喜びを感じており、読み直すと、自分でもイヤーな気持ちになります。書いていることも浅く、恥ずかしいです。
ただ、わたし自身は藤原氏の自閉的で表面的な日本文化・伝統礼賛には、今でも共感できません。併せてこちらの文章もお読みいただけると幸いです→id:yinamoto:20060415、id:yinamoto:20060223)
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「今日の嘘八百」
嘘五十三 日本人なら全員、武士の魂をどこかに持っている。