日本国腰砕け憲法

 わたしはテキトーな男であるからして、普段の生活も「とりあえず」的態度が中心だ。


 とりあえず起きとくか、とりあえず何か飲んどくか、とりあえずウンコしとくか、とりあえず仕事しとくか、とりあえずやめとくか、とりあえず飯食っとくか、とりあえず飲んじゃうか、とりあえず寝とくか、と、その連なりがわたしの人生を構成している。


 ま、とりあえず生きているわけだ。


 この「とりあえず」という言葉、「とりあえずビール」という居酒屋的頻出フレーズで有名だが、そのテキトーさ加減が、あいまいな日本の私によく合うと思うのである。


 あいまいな日本の私であるからして、いっそ、日本国憲法も、とりあえずこのようにしておいたらどうか。
 同じくテキトーさの漂う「なるべく」の力も借りよう。


前文


日本国民は、とりあえず正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢をなるべく確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることをとりあえず決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法をとりあえず確定する。そもそも国政は、とりあえず国民の厳粛な信託によるものてあつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利はなるべく国民がこれを享受する。これはとりあえず人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅をなるべく排除する。(後略)


 あっというまに、ヘナヘナである。
 無理に理屈をこねるなら、あらゆることはプロセスの過程の途中の進行形なのであり、これ、と完全に確定した瞬間、世界は固まってしまうのである。


 わかるだろうか。


 わからないだろう。なぜなら、わたしにもわからない。


第1条 天皇は、とりあえず日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。


第2条 皇位は、とりあえず世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、なるべくこれを継承する。


「とりあえず」、「なるべく」をぽちぽち入れるだけで、エラソーな憲法も、あっという間にダメ化してしまうのだ。


第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和をなるべく誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、とりあえず永久にこれを放棄する。


2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、なるべくこれを保持しない。国の交戦権は、とりあえずこれを認めない。


 日本の現在の軍事的姿勢というのは、そんなところではなかろうか。瓢箪から駒という感じだが。


第25条 すべて国民は、とりあえず健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。


第41条 国会は、とりあえず国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。


第65条 行政権は、とりあえず内閣に属する。


第81条 最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかをとりあえず決定する権限を有する終審裁判所である。


第86条 内閣は、なるべく毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。


 これを「日本国腰砕け憲法」と名付けて、国会に提案したい。ヨロヨロ、フラフラしているようで、何となくうまくいってしまうという、酔拳のような憲法だ。とりあえず、どうだろう?


 そうそう。セーショーネンよ、とりあえず生きとけ。


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「今日の嘘八百」


嘘四十一 ある種のマンションは、地震に対して根性で立ち続ける。