いきなり英語

 タモリのミュージカル嫌いは有名だ。
 何かで「死ぬ間際になぜハモれるのか?」と疑問を呈していて、笑ったことがある。


 タモリのミュージカル嫌いに似て、わたしが以前から不自然に感じているものに――嫌いというほどではないが――日本のポップスの歌詞で、サビがいきなり英語になる、というのがある。


♪好きだ 大好き 愛してる
 惚れたわ 腫れたよ アッハンウッフン


(サビ)
 Always lovin' you. Always I need you. Oh, oh, oh.


 いや、これは今テキトーに作った歌詞である。


 まあ、出来不出来はともかくとして、これ、冷静に見れば、やっぱ、不自然ではなかろうか。


 日本語と英語のバイリンガルの人が歌うならまだしも(それにしたって変だが)、aやtheの使い分けがわからなかったり、三単現のsの感覚を実感できない人間が、しばしばメタメタな文法で歌うのだ。


「課長、ついに山川商事の契約、取れました!」
「そうか! よくやった!! おまえなら、きっとやってくれると思っていたぞ。I need you. We need you. You're the sunshine of our company.」


 なんてふうに、日常会話で話すことは、まずないはずだ。


「ちょっとお父さん。そこ、掃除機かけといてよ」
「ハイ、ハイ。わかりました、わかりましたよ、っと。Let's sweep a room clean! しっかし、うるさいね。Imagine no wife. You may say Im a dreamer, but I'm not the only one.」


 というセリフも、最後に「なんちて」を(心の中で)付けない限りはないだろう。


「もう、おれ達、ダメなんだよ」
「なんで。ねえ、なんでよぉ。イヤだよぉ。ユウジと別れたくないよぉ」
「前みたいなわけにはいかないよ。もう遅いんだ。It's no use of crying over spilt milk.」
「ユウジ、変わったね。こんなの、私の知ってるユウジじゃない。He is not what he used to be. 彼は昔の彼ではない」


 こんな高校の英語の教科書みたいな会話も、まずあり得ない。


 ここいらでちょっと一息。