加害妄想

 自分で言うのも何だが、頭の回転は速いほうだと思う。


 普通の人が一回転する間に三回転くらいする。
 しかし、一回転であろうと三回転であろうと、止まる場所は同じ、というのが痛いところだ。おまけに、勢いでどこかにプロペラが飛んでいってしまう。


 無駄に頭が回転し、考えがあらぬ方向へ飛んでしまうせいで、取り越し苦労も多い。


 わたしはもっぱら家で仕事している。
 仕事に行き詰まり、人生を投げ出したくなると、よく散歩に出かける。


 小学校や幼稚園のそばを通るとき、校庭や園庭で遊ぶ子供達を見て、可愛いな、と思う。これでも、子供好きのほうなのだ。
 そうして、ハッとする。


 小さな子供を狙ったひどい事件が続いている時期だ。
 しかも、普通の住宅街で、平日にわたしくらいの年齢の男がふらふら歩いていることはあまりない。
 もしかして、不審人物に思われるのではないか。


 そんなふうに考えて、挙動がぎこちなくなってしまう。ハタから見ると、かえって不審に見えるだろう。加害妄想とでもいうのだろうか。


 あるいは、子供を連れた母親が、すれ違いざまにわたしのほうをちらりと見て、「目を合わせちゃいけない」というふうに顔を伏せることもある。


「わたしは野犬ではないのだぞ」と思うのだが、すぐにこれまたハッとする。
「子供を狙っているように思われたのでは?」と不安になるのだ。顔が赤らむ。これまた怪しく見えるだろう。


 もっとも、先日も、小さな女の子を連れた母親が、つっと顔を伏せたので、そっと見てみたら、ぷくくく、と笑っていた。
 安心したような、悔しいような、複雑な心境になった。


 暗い夜道、女性が前を歩いているときも困る。


 これでも、わたしは人に気を遣うほうだ。そういうときは、女性の斜め後ろに場所を移す。
 人間の心理として、真後ろに誰かがいるのは怖いものだからだ。


 そうして、必ず一定の距離を保つようにする。相手に不安感を与えないためである。


 ところが、それでも怖くなったのか、女性が小走りを始めるときがある。


 一定の距離を保たなければならない。わたしも仕方なく小走りする。


 女性の足はだんだん速まる。わたしもペースを合わせて足を速める。


 最後には女性は全速力で駆ける。わたしも全速力で駆ける。


 そうして、女性はたまたま開いていた店に飛び込む。
 なんだかんんだとあった後で、わたしは未解決の事件の重要参考人として警察に出頭を求められるのだが、それはまた別の話。今宵はここまでにいたしとうございます。


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