衝撃が走った

「○○に衝撃が走った」という表現がある。新聞や雑誌の報道記事によく出てくる。「○○」の部分には、いろいろな組織・地名が入るけれども、永田町や兜町である場合が多いようだ。


 たとえば、今朝の朝日新聞に、「漫画の主人公とミズノが契約 野球用具を独占提供」と題して、こんな記事があった。


 野球漫画「MAJOR(メジャー)」の主人公、茂野吾郎投手=写真=が使うグラブやバットはすべてミズノ製――。架空のスポーツ選手に対する独占的な用具提供契約を、スポーツ用品最大手のミズノが出版元の小学館と結んだ。


 まあ、何ということもない。要するに、漫画の主人公のグラブやバットにミズノのマークが描かれる、ミズノは出版社に契約金を払う、という、「世の中そこまで来ているんですよ」的な記事だ。


 ところが、「○○に衝撃が走った」と冒頭に付け加えるだけで、この記事の印象はガラリと変わるのだ。


 10日、兜町に衝撃が走った。
 野球漫画「MAJOR(メジャー)」の主人公、茂野吾郎投手=写真=が使うグラブやバットはすべてミズノ製――。架空のスポーツ選手に対する独占的な用具提供契約を、スポーツ用品最大手のミズノが出版元の小学館と結んだ。


 何かこう、大変な事態が持ち上がったかのようだ。
 野球漫画「MAJOR(メジャー)」と、その主人公・茂野吾郎投手は、以前から株式市場の注目を集めており、この抜き打ち的契約により、日経平均株価は大きな影響を受けるのかもしれない。


 永田町にも、ショックを受けていただこう。


 永田町に衝撃が走った。
 舞台の主役はジーンズ――。カジュアル衣料店「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングは10日、初のファッションショーを都内で開いた=写真。モデルの上半身を隠してジーンズを強調する凝った演出で、集まった約200人の観客を魅了した。


 永田町も、ユニクロが思い切ってそんな手段にまで出るとは、予想していなかったようだ。これで、政局が一挙に流動化する可能性が出てきた。


 次はスポーツで行ってみよう。


 10日、日本サッカー協会に衝撃が走った。
 大阪・万博記念陸上競技場ゴール裏の芝生席で、神田泰伸(33)は叫んだ。「ガンバ大阪、オーレ!」。


 何が何だかわからんが、もしかすると、ガンバ大阪は、現在の日本のサッカー界では、「触れてはならぬこと」、「ないことになっているもの」だったのかもしれない。
 ところが、神田氏がそのタブーを破った。風穴を空けた。しかも、「オーレ!」という、全肯定の言葉とともに――。と、そういうことなのではないか。


「衝撃が走った」のさらに上を行くのは、「激震が走った」である。


 10日、教育界に激震が走った。
 横浜市は同市の教育委員に、「ヤンキー先生」として知られ、3月限りで北海道の北西学園余市高校を退職する義家弘介さん(33)を起用する方針を固めた。開会中の横浜市議会に提案する予定だ。


 私は、このヤンキー先生という人のことを風の噂程度でしか知らないが、できれば、ヤンキー先生らしく、ポマード一瓶使った全長30cmのリーゼント(上空が見えない)に、鋲がたくさん付いた革ジャン、レイバンのサングラス、仕上げに木刀を肩に担いで、横浜市教育委員会に殴り込みをかけていただきたい。


 それでこそ、ヤンキー先生。それでこそ、激震が走るというものだ。そこんとこ、ヨロシク!


(以上、「〜が走った」より後の文章は全て2005年3月11日付朝日新聞朝刊より)


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