アホ歌〜フニクリ・フニクラ

 昨日、「アホ歌の本場は、スイス、イタリア、フランスである」と書いたが、あらためて考えてみれば、イタリアはそれほどでもないのであった。


 たとえば、パヴァロッティが両手を広げて唄う「オ・ソレ・ミオ」は、冷静に考えると、異様ではある。


「私の太陽、それはあなたの微笑み! 」と、太ったひげ面男が女に熱烈に迫る。
 さらには、豊かな声量でこんなことを訴える。「夜になり太陽が沈むと、私のもとへ憂鬱が訪れ、あなたの窓の下にいたくなる」。お前は、ストーカーか!


 ただ、これは多分に、イタリアと日本の恋愛表現の違いによるものだろう。要するに、慎み深さの問題である。


 また、「サンタ・ルチア」からもアホの香りを感じるが、おそらくは、村上ショージの「♪サンタ〜・ル〜チ〜ア〜、鼻か〜ら血〜や〜」というギャグのせいだろう。


 私が昨日、イタリアをアホ歌の本場と書いてしまったのは、たったひとつの歌のせいだ。すなわち、「フニクリ・フニクラ」である。


 歌詞を見てみよう。


赤い火を吹くあの山へ 登ろう 登ろう
そこは地獄の釜の中 覗こう 覗こう


 陽気に、火山の火口を覗きに行こう、と誘う。
 なお、ここで出てくる「赤い火を吹くあの山」とはナポリ近くの火山、ベスビオ山のことである。


登山電車ができたので 誰でも登れる
流れる煙は招くよ みんなを みんなを


 ここらで、この歌が宣伝目的で作られたことがわかってくる。
 この後、曲調は勇ましいアホぶり全開になる。


行こう! 行こう! 火の山へ!
行こう! 行こう! 山の上!


 そうして、浮かれたまま、景気よく終わる。


フニクリ・フニクラ フニクリ・フニクラ
誰も乗る フニクリ・フニクラ!


 前述したように、「フニクリ・フニクラ」はCMソングである。どことなく、小林亜星チックな曲調なのはそのせいだろう。
 1880年、ベスビオ山に開通した登山鉄道。そのCMソングとしてつくられたのが、この歌だ。


 日本の合唱団がよくこの歌を唄うけれども、なぜに日本の合唱団が、イタリアの登山電車のCMソングを唄うのか? 考えてみれば、不思議である。


 言ってみれば、「ヤン坊マー坊天気予報」の歌をウィーン少年合唱団が唄ったり、和田アキ子歌唱による「♪富士っ、サファリ・パ〜ク!」というのをケンブリッジ・キングス・カレッジ合唱団が唄ったりするようなものだろう(か?)。


 ところで、「フニクリ・フニクラ」の凄いところは、歌自体がアホっぽいだけでなく、唄う者までアホにしてしまうところだ。


 試しに、終わりから二行目の最初のほうを、「♪フニックリッ・フニックラッ、フニックリッ・フニックラッ、フニックリッ・フニックラッ、フニックリッ・フニックラッ……」と繰り返してみていただきたい。
 何か、こう、中毒的になってきて、常軌が逸の字へと向かうのがわかるはずだ。


 おそらくは、「フニクリ・フニクラ」という言葉の、意味とは関係のない音の魔力によるものだろう。


 まあ、聴く者、口ずさむ者をアホウにして、放心状態のうちに商品を買わせる(この歌の場合は登山電車に乗せる)、というのは、CMソングの基本テクニックのひとつだ。小林亜星の「♪パッと、サイデリア〜」はその代表例である。


♪行っこう! 行っこう! 火っの山へ〜! 行っこう! 行っこう! 山の〜上っ!


 アホウに浮かれ踊る人々を乗せた、登山電車。


 しかし、その登山電車が登るのは、かのポンペイを火山灰であっという間に埋め尽くしたベスビオ山だ。現在も、バリバリの活火山である。
 1944年の大噴火で登山電車は破壊されてしまった。


・世界の民謡・童謡 ソングブック フニクリ・フニクラ Funiculi, funicula!


 上から3枚目の、火山と登山鉄道(あるいは、その後につくられたという腰掛けリフトか?)の写真は怖い。
 まあ、確かに、アホ歌ででも浮かれさせない限り、乗ろうという人々がなかなか出てこないように思う。


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