「〜の卵」という表現がある。


 「ダチョウの卵」、とか。


 ……しょっぱなから自分の話の腰をサバ折りしてしまったが、もちろん、そうではなくて、比喩で使う「〜の卵」についてである。


 たとえば、「弁護士の卵」、「医者の卵」というとき、あなたはどんな卵を思い浮かべるだろうか。
 たいていは、ニワトリの卵ではないか、と思う。ウズラの卵じゃあ、スケールが小さくて、苦労して弁護士、医師になろうとしている方々に申し訳ない。いや、これはウズラの方々にも申し訳ない言い草だが。


 かといって、ダチョウの卵とか、ステゴザウルスの卵、モスラの卵となると、スケールが大きすぎる。
 鮭の卵のように、メスが産卵した後、オスが精子をシャーッとぶっかけ、それでよいことにしてしまう、というのも悪くはないが(なんかテキトーっぽくて、私は好きだ)、弁護士の卵や医者の卵の方々には不評だろう。


 「〜の卵」の卵には、将来はそれなりの地位についても、現在はまだたよりないところもある、という加減が必要だ。ニワトリの卵くらいがちょうどよい。


 ところで、「弁護士の卵」、「医者の卵」、「政治家の卵」、「音楽家の卵」というのはあっても、「ノンキャリア官僚の卵」、「電器屋の卵」、「専業主婦の卵」、「八百屋の卵」、「掃除のオバサンの卵」、「小役人の卵」というのはない。
 職業差別ではないか!? と、怒り狂うつもりは全然なくて、「職業に貴賤はない」というのは多分に建て前、実際には人々の心の中で、ある程度、上下がつけられているということだろう。
 もちろん、八百屋さんには、今日も一日、しっかり働いていただきたい。矜持というものは、各人、勝手に持てばよいのです。


 「イナモトの卵」となると、これはもう取り返しのつかない申し訳なさ、を感じる。


 では、「サラリーマンの卵」というのがもしあるとしたら、何がふさわしいだろうか。


 私は、今日も学校で学んでいるであろう学童達のことをちらりと思い浮かべつつ、なぜか、シシャモを連想するのであった。


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