イチョウの物語

 今年の秋は暖かいせいか、あるいは毎年こんなものだったか、東京ではようやくイチョウが黄色く染まり、散り始めている。
 イチョウというのはなかなか数奇な運命をたどってきた植物であるらしい。以下はWikipediaの記述をただまとめただけだが、よろしければお付き合い願いたい。
 イチョウ科は随分古くからある植物で、中生代(いわゆる恐竜の時代)から新生代にかけて世界中で繁栄したが、先の氷河期にほぼ絶滅した。今のイチョウイチョウ科の唯一の生き残りの種で、どうやら中国の安徽省の片隅でひっそりと自生していたらしい。それが11世紀はじめに宋の首都、開封に植栽され、その見事な黄葉が注目されたか、葉の形の面白さが気をひいたか、人間の手によって中国各地に広まっていった。
 日本にいつ輸入されたかははっきりわからない。確実な記録は室町時代の15世紀のものだそうだ。
 ヨーロッパには1692年、ケンペルが長崎から持ち帰った種子から広がった。街路樹や公園でよく見るので、何となく洋風なイメージもあるイチョウだが、ヨーロッパではそう古くからある植物ではないわけだ(日本でもそうだけれども)。
 かつて世界的に繁栄しながら衰微し、中国のごく狭い地域で命脈を保っていた。それがもっぱら「美しい」という理由から人間の手で広められ、再び世界的に繁栄している。なかなかよくできた物語だと思うのである。