口と鼻の機能と位置関係について

 毎度ながら人間の体というのはよくできていると思うのである。
 このようなことを書くのは、先日、何かで、鼻が口の真上にあるおかげで人間は危険な物質が体内に入るのを防ぐことができる、というようなことを読み、ハタと膝を打ったからだ。ちなみに、おれはいろんなことでやたらとハタと膝を打つものだから、膝のあたりは内出血の絶えた試しがない。
 通常、人間の顔はこんな配置になっている。

 ちなみにこの人は、木星探査船パイオニア号にイラストとして載せられたパイオニア氏である(名前は今おれがつけた)。

 パイオニア氏の如く、鼻の穴が口の真上で開いていると、口に異臭のするものが運ばれようとしたとき、「ムム。これは危ないですぞ、危ないですぞ!」とアラートを脳に送ることができる。
 例えば、あなたが何かを食べようとしているとする。箸やスプーンでその食べ物を口に入れようとしたまさにその瞬間、鼻にツン、と来る。すると、あなたは「ン?」と思い、食べようとしたものを点検し、違和感やリスクの判断があれば、食べやめるだろう。もしそれが腐ったものや異物なら、あなたの体は鼻のツン、のおかげで救われるわけだ。鼻が口の真上で下に向いて穴が開いているからこそである。
 鼻が上下逆についていると、

 口に運ばれようとしているものの臭いがわからず、腐ったものなどもスルーしてしまう可能性がある。また、風邪ひいたときとおんなじでカレーを食べても今いち美味くないに違いない。
 同様に、あんまり鼻の幅が開きすぎていて(俗に「鼻があぐらをかいている」と呼ばれるタイプ)、口が小さいのも問題である。

 口の外側の空気が入ってきて、上下逆についているよりはマシかもしれないが、機能的にはやや落ちる。
 いわゆる豚鼻の場合も興味がわく。

 鼻の穴が前斜め下を向いているから、悪いものを食べようとするとき、普通の人より早めに臭いに気づきそうだ。一方で、まだ食べ物と口との距離があるから、やや精度や感度は落ちそうである。本当に口にしようとするときには案外臭いを感じにくいかもしれない。もっとも、鼻の管が下を向いていて、穴だけが前向きの場合、空気の流れはどうなるのだろう。一度、風洞実験で調べてみたいものだ。
 目と鼻の位置関係が逆だとどうだろうか。

 口に入る食物を間近に見て検査できるようにはなるが、人体上の危険(毒)というのは色や形より臭い、すなわちケミカルな要因によって区別できることのほうが多いだろうから、やはり、鼻が口の上にあるほうが便利である。それに、これではくしゃみするたびに鼻水が目に入ってきて不便でしょうがない。
 そんなわけでパイオニア氏の顔の如く、五感をつかさどる人間の器官の位置関係というのは人体の安全を保つうえでよくできていると思うのである。口のすぐ上に鼻の穴が開いているという設計は、体を異物や毒物から救ううえで実に素晴らしい。

 関係ないが、山田風太郎に、このような器官の関係になっている主人公が出てくる短編がある。

 末摘花や、芥川龍之介の「鼻」に出てくる高僧の如く鼻が長いわけではない。状況や情趣に応じて伸縮する例の不如意なものがついているのであって、これはやはりみっともないだけでなく、日常生活上も、嗅覚による危険察知のうえでもさぞかし不便であるに違いない。人体の位置関係の不幸として同情する。