日常のスリル

 書店のレジに並ぶと、わたしの前に赤ちゃんをぶら下げた母親がいた。
 赤ちゃんは生まれて数ヶ月というところだろうか、何と呼ぶのかわからないが、小舟のような形のキャリーの中で眠っていた。


 絵で描くと、こんなふう。弁当売りみたいでもある。



 首がすわるまでは横に寝かしておいたほうがいい、とか何かあるのかもしれない、赤ちゃんは仰向けになっていた。


 それはいいのだが、この母親が赤ちゃんの寝ているキャリーを無頓着にぶんぶん振り回すのだ。レジの角やなんかに赤ちゃんが頭をぶつけやしないかとハラハラした。


 注意していると、日常生活にも案外、スリルというのはあるもんである。


 先日、神社で記念写真を撮っている人達に出くわした。
 五、六人が集まって、石段の上でポーズを撮っている。


 あの記念写真を撮っている人々というのは、ハタで見ていると間抜けに見える。
 中の1人の女性が、中腰に、斜めを向くようなポーズでVサインしていた(ますます間抜けである)。
 見ると、ハイヒールのカカトが石段の端まで1cmである。


 イエーイ、などと調子こいていると、踏み外してゴンゴロゴロゴロ行くんではないか、と、これまたハラハラした。


 残念なことに、じゃなかった、幸いなことに、その一団は無事に間抜けな記念写真を撮り終えたのだが。


 コケるといえば、一昨日だったか、雨の日に駅を歩いていると、後ろでシュパターンという音がした。
 振り返ると、女性が転んでいる。両側に松葉杖が倒れている。


 どうやら、濡れた床面で松葉杖が滑ったらしい。
 これはスリルではなく、スリルの後の破局であった。