ビールの不思議

 昨日に続いてビールの話。

 わたしがビールと出会ったのは、子どもの頃、親の飲んでいたビールをちょっとなめさせてもらったのが最初だ。苦くて、うえっぺっぺ、とすぐにのけた。「こんなもののどこがおいしいの?」と訊ねると、親は「大人になればおいしくなる」と教えてくれた。

 そうしてわたしは大人になり、ビールはちゃんとおいしくなった。

 思うに、これだけ苦みが愛されている飲食物というのは、ちょっと他にないのではないか。コーヒーやお茶も苦いけれども、砂糖やミルクを入れるなど、苦みをやわらげる飲み方が多い。食べ物のほうでは、ニガウリなんかにはビール並みの苦みがあるけれども、世界中に普及しているわけではない。

 今書いた世界中に普及、というのもビールの不思議のひとつで、ビールは世界中で作られている。原料の麦(ビールの種類によっては米も)が手に入りやすいせいもあるだろうが(ワインの原料となる葡萄なんかは地域が限られる)、それだけならばこれほど世界中で愛され、作られはしなかったろう。そう、あの魔法の原料、ホップがあるからこそのビールのんぐんぐんぐプハーッであって、あの苦みの魔力に、飲める世界中の人々がやられてしまったのだと思う。

 ホップというのはビール以外ではあまり用途のない植物らしい。最初に麦の酒とホップを組み合わせることを発見したのは誰だろう。世界中のビール愛好家は、そのアイデア(かあるいは偶然か)に感謝し、賞賛し、最初の一杯を彼(か彼女か知らないが)に捧げて、乾杯すべきだと思う。