濁音の力〜2

 コピーライター/CMプランナーの佐藤雅彦が、確か、コピー作りのコツの1つとして、濁音の使用を挙げていた。佐藤雅彦の手になる「バザールでござーる」や「ダンゴ三兄弟」、「ジャンジャカジャーン」がわかりやすい例だ。濁音は、聞く者にとってスパイス的においしいということなのだと思う。もちろん、いくら濁音が有効だからといって、「ダダなベビーのビッグなブーブー」ではコピーにならないが。スパイスがおいしいからといって、胡椒を丸飲みしてはいかんのと同じである。

 考えてみると、罵倒語と言われる言葉にも、濁音の入っているものが多い。例えば、チビ・デブ・ハゲがわかりやすい例だ。「デブ!」はなかなか強い響きを持つが、対義語の「ヤセ!」では迫力に欠ける。ここはやはり、濁音を取り入れて、「ガリ!」とやるのがよいのだろう。

 ジジイ、ババア、なんていうのも濁音の力強さを持つ。「ブタクソババア」という物凄い罵倒語があるらしいが、これなんぞ、ババアに加わった「ブ」の音が破壊力をいや増しているのだろう。

 関東の「バカ」と関西の「アホ」はよく対比される。濁音の強さのせいか身も蓋もない感じのする「バカ」に比べて(もっとも、妙齢の女性に「うんもう、バカン」などとやられるのはよいものである)、「アホ」のほうにはやわらかいニュアンスも含まれているように思う。「アホ」をもっと強めるには、やはり濁音を加えて、「アホンダラ」とするのがよい。

 もっとも、罵倒語というのは相手をいかに攻略するかがミソだから、ただ強ければよいというものではない。「マヌケ」や「ノロマ」、「甲斐性なし」のように、濁音に頼らず、相手のダメさ加減をスカすような響きで表現するものもある。

 ともあれ、濁音は聞く者にびりっと刺激を与える。言葉に一種の力感をもたらすようだ。