春をめぐりて

 相変わらず唐突な話題で申し訳ないが、売春、春をひさぐ、などと言うけれども、なぜああいうのは「春」なのだろうか。


 いや、何となくの印象で、「四季の中なら春、だよなあ」とは思う。売秋や冬をひさぐでは、お婆さんのようで、どうもよくない。


 秋や冬に比べて、夏はイケそうな気はする。生命の最好調期というふうがあるからだ。
 しかし、一方で「暑い」、「こんななか、とてもじゃないが」という気持ちも、まあ、古来からあったのかもしれない。


 してみると、消去法で春なのだろうか。もう少し積極的な理由がほしいところである。


 季語集を見ると、「けものさかる」なんていう、もの凄い言い回しが春の季語なんだそうで、動物から来ているのか。


 しかし、猫は確かに春に発情するけれども、夏の終わりくらいまで、周期的に発情期が訪れるようだ。犬はいろいろのようだし(人間のようにのべつというわけではない)、和歌によく詠まれた鹿は秋に発情期を迎える。


 どうもよくわからない。


 とにかく、日本では劣情方面は春、と、こう決まっている。


 売春防止法が制定されたのは、昭和31年。制定にあたっては、市川房枝らが中心となった衆参婦人議員団が活躍したという。


 助平な男の国会議員は困ったことだろう。表だっての反論はしにくく、反論しても、だいぶ切っ先が鈍ったのではないか。


 昭和33年4月1日、売春防止法の全面施行の日には、国会議員有志が琵琶湖畔に集まり、「行く春を近江の人と惜しみける」と全員で唱和したのは、有名な話である。というのは、今、作った嘘である。


 十代前半から半ばくらいの少年少女を思春期と呼ぶが、あれも随分うがった言い回しだ。「春を思う時期」。身に覚えがありまくりである。


 思春期という言葉がどういう経緯で生まれたのかは知らない。広辞苑を引くと、こうあった。


ししゅん-き【思春期】二次性徴があらわれ、生殖可能となる時期。一一〜一二歳から一六〜一七歳までの時期。春機発動期。


「春機発動期」。凄いね。


 合体ロボかなんかに主人公の少年が乗り込んで、敵に向かって、「春機、発動!」。


 敵は驚いて、逃げるね。そんなのでやっつけられたら、さぞや悔しいに違いない。

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「今日の嘘八百」


嘘六百三十五 童謡「春が来た」には裏の歌詞があるらしい。